第4話 隠れた真意
私は俯きながら約束のファミレス向かっていた。
「なんでこうなっちゃったのかな?」
その一言を吐き捨てると同時に、悲しみモードを断ち切った。別れを強要した男に向ける顔なんてないが、同情されるような表情は見せたくないと思ったからだ。
少しずつ迫ってくる時間に、落ち着かない心拍。今にも呼吸困難になってしまいそうなる。
胸に痛みを感じて断ち切ったはずの悲しみモードが返ってくる。今にも叫びたい気分だ。
しかし冷静になるように深呼吸をして落ち着かせた。
「ごめん、待たせた。」
「ううん。」
私たちはファミレスに入り、席についた。
互いに気まずい空気から沈黙が続くが、先に声を出したのは悟だった。
「ごめん。俺、ぜんぜん知恵のこと考えられてなかった。」
「うん...。」
「...約束を破って、知恵に心配かけて。彼氏失格だよな。」
「悟、...私ね。...あなたの...」
「“だから”、...やっぱり俺たち別れよう。」
「え?...」
私の話を遮るように悟が少し大きな声で言った。
「俺さ、知恵と付き合ってるのにほかに好きな人ができちゃったんだ。」
「それって...。」
「そう。メール、見たんだよな。...その子だよ。」
私にはわかる。悟は私にわざと嫌われるようなことをいっているのだと。
「嘘...。」
「明日、返事をしようと思ってる。」
悟の考えが見えてきた。悟は自分が嫌われ者になることで私の次の恋を応援してくれているのだ。
「“好きだ”って伝えるつもりだ。」
「そんなに好きになっちゃったんだ。」
「...ああ。」
“ビチャッ”
私は、ただひたすらに悔しかった。悟に気を使わせて、スマホを盗み見たこともバレてた。
だから私は悟の描いた
コップの水をかけ、私は自然と涙目になった。
「悟ってさ~。イケメンじゃないし、行動も遅いし、鈍いし、スケベでいつも適当なこと言って...」
悟の悪口をただひたすらに連ねる。
言っていてとても苦しい。好きなのに...君が好きなのに私は、君を傷づけることだけを言っている。頭の中は真っ白になり、ただただ思ってもないことを吐き捨てる。
「私のこと見てくれてないし、宿題とかいつもぎりぎりまでやらないし、授業中はいつも寝てるし、部活だってうまくいってないし、今みたいに浮気して、別れ話になったらすぐに乗り換えるようなクズだし...」
「...。」
私の言葉を止めようともしないでただ聞いているだけ。その様子を見て、私の
「...クズだし...。..........クズだけど、勉強できないくせして私の進路に合わせてくれたし、落ち込んでいてもいつもそばにいてくれた。何をしても私のことお好きでいてくれた。.........そんな悟だから!...悟だから 私は付き合ったの! 好きだったの...なのに......。」
「!?...知恵。」
もう無理だ、この関係を続けることはできない。私から別れを切り出して、悟も同意して。悟が隠していたことにも気づいてたのに、私はそれを隠し、悟は私を幸せにすることができなかった。
こんなに隠し事を互いにしているのに、隠せるはずがなかったんだ。こんなに近くにいるんだから。
「もう、おしまい。私たちの関係はこれで終わり。ありがと。好きになってくれて。」
「...。」
悟は静かにうなずうくと、自分のコップの水を一口飲む。
私は「さよなら」と言ってファミレスを去った。
最近泣きすぎたのかファミレスを出た後には涙は枯れており、目の周りをただ腫らしていた。
「あんた目、どうしたの!?」
「...悟と別れてきた。」
「あら、そうなの。愚痴だったらいつでも聞くわよ。」
母の温かみに触れながら私は言葉に甘えることにした。
「あいつ、ほかの女の子が好きになったから別れてくれって嘘をついたんだ! 幼馴染なんだからわかるのに。」
「そんなことがあったのね。嘘をつくなんてひどいことするわね。」
「でしょ!!」
「でも、必要な嘘だったんじゃないの。」
「そんなことは、私も知ってるの。あいつは抱えすぎなのよ。話をするのが好きなくせに全然相談とかしないんだから。」
「なんだ、全部わかってるのか♪ せっかくお母さん、頑張って助言してあげようと思ったのに。」
「私たちはきっともとには戻れないよ。」
「...? あ! そういえば悟君、
悟が何かを言ってた? 何だろう。
「確か~、線香花火がどうとか言いていた気がするけど。」
線香花火? どういうことだろう?
「知恵? 別れるのはいいけど、近所なんだから仲直りはしてよ。」
「分かった。」と一言だけ言って私はベッドに潜った。
次の日、学校で授業を受けるが内容はあまり頭には入ってこなかった。
なんの接触もないまま約1ヶ月が経過した時。
「すみません。え~と、川里 知恵さん...いらっしゃいますか?」
昼休みになって突如やってきた下学年の生徒。
「はい、私ですが...どうかなさいましたか?」
「あ、あなたが川里先輩でしたか! はじめまして。」
どこかで見た気がするその生徒は一体誰だったかと記憶を探る。しかし出てくる記憶の多くが悟との思い出だった。
つらい思いをしながらたどった記憶でやっとでできた彼女は上学年の上履きを履いていたことを思い出した。
「あ、え〜っと...下学年でびっくりしましたか?」
「あ! ってことはあの時悟と一緒にいたのは...」
「あの日はたまたま上履きを忘れてしまって“カシダ シヨウ”の上履きを履いてました。あの日、図書室前に落ちていた本は、あなたが落としていったものですね。」
「気づいてたんですか。」
「誰が本を借りてるのかはこちらでしっかりと把握していますから。」
「そう...ですよね。ところで、何か用があったんじゃないですか?」
「あ! そうでした! え~っと...実は雨谷先輩のことで。」
「は...はぁ」
「それが...、私、前に先輩に告白したんです。」
あのメールはやっぱりこの子だったんだと分かった。
「でも、すぐに振られちゃいました。」
「...。」
「彼女が...幼馴染がいるからごめんって言われたんです。...先輩、思えばいつもその幼馴染の話してたんです。お勉強の教え方がうまいとか、頭がいいとか、追いつきたくて頑張ってるとか、もうほんとにたくさんのあなたの話でした。」
「何が言いたいんですか?」
「さっきここに来る途中に先輩を見ました。元気がない姿でした。もともとやる気のないような顔をしていますが、私は見ていられませんでした。」
「...。あなたは何を...」
「まだ分からないんですか!」
彼女は突如大きな声を出した。その表情は初めて会話した私でもわかるくらいに必死だった。
「こんな
「ちょっ、ごめん、なんのこ...」
「____________‼」
耳なりのような“ピィ~~~ン”という音が響く。彼女の発している言葉が...口の動きが無理やりにでも私の頭の中に伝えてくる。
どこかの物語で聞いたことがあるようなセリフ。その一言をまさか自分が言われると思っていなかった。
「先輩と別れたって聞きました。...その表情...まだ好きなんですよね?」
「...!」
「正直になってください‼ 好きなんですね!?」
彼女の
「でしたら。私のためにも本音でぶつかって砕け散ってください。先輩にあなたという黒歴史が残らないように。私が言いたかったのは以上です。それでは。」
去り際に見えた彼女の横顔は、真顔でいて怒っているような悲しんでいるような表情だった。
昼休みが終わり放課後になるまで、私は悟を呼ぶための置き手紙に何を書くか考えていた。
今の時代に置き手紙なんてって思うかもしれない。でもあの時も置き手紙だった。
出来るなら体育館準備室を利用したいところだが、部活に使われている体育館の近くでは落ち着いて話をすることができないと考え、私は教室に彼を呼ぶことにした。
時刻が19時になる30分前。
悟は教室にやってきた。
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