第3話 線香花火の難所

 昨日見た通知のことを悟に問い詰めることはしなかった。悟を好きだと言ってくれる子に悪い子は居ないと思うからだ。


 どんな子が悟を好きになったのかは気になるので、探してみることにした。と言ってもある程度検討は着いているのだが...腑に落ちないことが一つだけあった。


 それを確かめるために私は図書室に向かったが、私の検討していた子は、今日は担当じゃないらしく、話を聞くことは出来なかった。


「お昼どう?」


「え? あぁ、うん! うまいよ!」


「ほんと!」


 嘘だ。悟は嘘をついている。


「凄く嬉しい。」


 今日は悟も...私も、本音で話し合えてない。味なんか感じてないんだ。だってまだ一口も食べてないんだから。


 後で気まずい雰囲気になるのも嫌なので、さりげなく一口食べておく。それでも結局話さないといけないことなのかもしれない。


”、について。


 放課後になり、いつも通り悟は部活に行き、私は帰路に就いた。


「あ!知恵っちだ!知恵っち〜!! そういえば今日元気なかったね。」


「わかっちゃった?」


「何かあったなら話聞くよ。いつもうちが聞いてもらってるし。」


「・・・ありがとぉ〜〜!!」


「うぉっ! びっくりした〜! よしよし、困ったことがあったらお姉さんが相談に乗りますからね〜。」


「...実は...悟のスマホに“好きです”っていうメールが来たの。 それで、.........」


 私が知っている情報を全て話して相談した。正直に言って返答には期待していなかった。だからこの沈黙も予想していた通り...


「それ彼ピやばくね? ほんとに知恵っちのこと好きなの?」


「え?」


「知恵っちもほんとに彼ピのこと好きな...」


「好きに決まってるじゃん!」


「うぉぉ! そんなに即答されるとは思ってなかったわ。いいね。でもそれならなんで彼ピに聞かないのさ?」


「それは、詳細も知らないのに首を突っ込んで勘違いでした〜なんて恥ずかしいじゃん。」


「恥ずかしくたっていいじゃん! その女に彼ピ取られちゃうよ!」


「...。」


「...うん?」


「...実は、その心配はしてないの。彼から私に告白してきたわけだし。生まれた時からの付き合いだから、何を考えてるか何となく分かるって言うか...。」


「え? そこまでわかってるならなんの相談? 惚気のろけ?」


「そうじゃなくて! ...」


「そうじゃなくて?」


「...。」


「あ゙〜もぉ〜! 心配なんでしょ! 」


「いや、だからそうじゃなくて...」


「恥ずかしがるなって〜、聞きたいことあるなら早く聞いちゃいなよ。」


「ん゙〜」


「そうだな〜、わかった! じゃあ今夜聞いて! 明日話聞かせて! 約束。約束だからね!じゃ、うちはここで!」


「えっ! ちょっと〜!」


 分かれ道を利用して一目散に帰る逃げる彼女の姿を見て、いつかは聞かなきゃ行けないことだということを思い出し、渋々実行をすることにした。


「ただいま〜」


「おかえりなさい! ...悟、話があるの。お風呂上がったら、部屋に来て。」


「お...おん。...?」


 数分後、悟は言われた通りに私の部屋に来た。


「何かあった?」


「悟...私に何か隠してる事ない?」


「えっ?」


「今日は心ここに在らずって感じだったよ。昔からずっとそう。気になることがあるとずっとその事ばっかり考えてる。」


「...。」


「悟、中学二年生の時、私に言ってくれたよね。“正直に言えよ”って。あの言葉セリフ...私の進学のことだけじゃない。私たち二人の間に隠し事はなしって事だと...思ってる。」


「...。」


「ねぇ、...いつもみたいに話してよ。」


 悟はいつも話をしてくれる。自分の話、友達の話、私の悪口、嫌いな人...苦手な人の話、趣味の話。そう、ほんとに何でも話してくれる。


 でも、図書室のことは何も話してくれない。


「そっか。...話して...くれないんだね。」


「...ごめん。」


「...別れよっか。...私たち。」


「え!? ...いや待て! なんでそうなる!」


「なんでって、もういい。出ていって!」


「いや、ちょっ...いや、ま...」


“バタン”


 部屋を追い出された悟は、少しの間部屋の前を動く様子はなかったが、何も言い返すことなく静かに去っていった。


 少し冷静になって、別れよっかなんて自分で言っておいて後悔をする。


 それでも意志を曲げる訳には行かないのだった。



 次の日。リビングで悟と目が合ったが、私はすぐに逸らした。すぐに支度をして、いつもより早めに家を出る。


「知恵ぇ〜! どうだった?」


「別れよっかって...言っちゃった。」


「え? 嘘。」


「話をしてくれなくて...。どうしよう!」


「お〜お〜! とりあえず落ち着け。」


 冷静さを取り戻せと言われて、深呼吸をする。


「詳しく状況聞かせてよ。」


「うん...えっと...」


 ...


「それはどう考えても彼ピが悪いでしょ! 知恵っち悪くな〜い! もう別れちゃって良かったんだよ!」


「でも...。...そうだよね。...うん。」


「じゃ〜今日の放課後は、あたしと憂さ晴らしにカラオケ行こ!」


「うん、いいよ。」


 放課後にカラオケに行くと、私たちはただひたすらにテンションが上がる曲を歌い続けた。


 最後には何もかも忘れて「も〜いっかい!」の歌詞を起点にリピートするサビが特徴的な曲をエンドレスで歌って、全てを発散した。


「いや〜、久しぶりに知恵っちと来たけど、やっぱり今日は楽しかったわ〜。」


「うん! 私も! また来ようね!」


 帰り道でまた悟とのことを思い出し、別れようとしてよかった。その言葉を頭の片隅に入れつつも、ほんとに良かったのか悩みながら家に着いた。


 悟はまだ家に居なかった。


「知恵? おかえり。悟くん、もううちに泊まらないで家を片付けながら、ご両親のことを待つって。」


「え? あ、そう...なんだぁ。」


「...? どうかしたの?」


「いや、なんでもないよ。」


「そう...。」


 お母さんは何かに勘づいているみたいだ。


“ブゥー”


 スマホの画面を見ると悟からの連絡だった。


「昨日のことで話があるから、明日の放課後、家近くのファミレスで会える?」


 きっと悟は私の話を飲んでくれるだろう。


 を破ったこと、それを含めて罪悪感を持っているからだ。


 私はただ、「わかった。」と返事をしてスマホの電源を切る。


 私は顔を枕にうずめて、声が漏れないように叫び泣いた。

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