いつも通りの、夕方。

 ゲームセンター。

 彼はいない。


 筐体。人がたくさんいるのに、誰も入っていなかった。


 メインボード。

 誰かが、よわい相手を徹底的に倒している映像。

 おかしいな。筐体には誰も。


 いない。


 のに。


 大会の映像だった。


 そして。


 彼が、いた。


 よわい相手を、完全に倒している。

 それも、ものすごくつよい。課題だった攻守の切り替えが、すごく、なめらか。今わたしと戦ったら、いい勝負になるかもしれない。


 不安だった。


 大会なんて。

 光と。人が。


 よわい相手を叩きつぶした、彼は。

 ぼろぼろだった。


 それを、何も知らないカメラが、ズームする。見ていられなくて、メインボードから目を離した。サイドボード。彼の、スコア。


 次も。


 その次も。


 彼は、対戦相手をぼこぼこにした。

 そして、彼は。もう限界みたいだった。

 たぶん、次が決勝。


 彼は、よろよろと筐体にもぐりこんで。

 敵を瞬殺した。たぶん、今までの彼のなかで、いちばん、強い。


 ちょっと、ほんのちょっとだけ。嬉しかった。自分と同じぐらいの強さで。彼が、ゲームをしている。

 彼とわたしは。今もまだ。このゲームで、繋がっている。


 そんな気分も、彼の顔を見て、すべて消えた。


「もう。もうやめて」


 ぎりぎりの状態の、彼。

 なんで誰も。彼を止めないの。

 やめて。

 彼は、人が多いと頭に負荷がかかるの。彼は、光を目に受けるとふらふらしてしまうの。おねがい。もうやめて。


 お願いだから。


 画面では。


 容赦なく、彼の、優勝インタビューが始まっていた。


 彼。インタビューのところに進もうとして。倒れた。


「あぁ」


 やめて。もう。やめて。


 彼は。


 すぐに立ち上がった。


 インタビューのところに行って。


「ごめんなさい。うれしくてちょっと転んじゃいました」


 そう言って。


 画面外、下に目を向けた。


「あ」


 いま。


 たぶん、右手の人差し指みてる。


 わたしも。


 左手の薬指を、見た。

 彼の、指環。

 集中して。落ち着いて。

 わたしも。ここにいるから。


 5。


 4。


 3。


 2。


 1、


『いつもよく行くゲームセンターに、親を知らない人が、ひとり、います』


 よく知らない店名。よく知らない名前。わたしの、こと、だろうか。


『おねがいします。これを見ていたら、会いに来て、いただけないでしょうか』


 彼の顔から、笑顔が消えた。どうしようもなくて、メインボードから目をそらす。もう。見ていられない。


『どうか。会いに来てください。このゲームをやっていて。生きていて。よかったと、教えてやりたいんです。よろしくお願いします』

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