スピンオフ 彼視点
第10話2
少し休んだら、よくなった。
彼女は。隣で、眠っている。泣いていたのか、目元がすこしはれていた。
彼女について、知りたいことがある。彼女について。彼女が傷つかないように。彼女のいないところで。
連絡先がないのを、惜しいと思った。彼女のところには、いられない。だからといって、携帯端末を持つのも難しかった。情報の奔流で、数秒で頭がノックダウンする。
立ち上がる。
行かないと。
ゲームセンター。なんとか外は曇りで、普通に歩くことができた。
しかし、ゲームセンターの入口で足止めを食った。やはり、日中のゲームセンターは明るい。人は少ないが、情報は多い。夕方まで待つか。しかし、それをやると、彼女が来てしまう。
「あの」
後ろから、声をかけられる。
見知ったような、見知らぬ顔。
「どうかしましたか?」
「いや。このゲームセンターに用事が。というか、ここの店員に」
「私でよければ、話を聞きますが」
そうか。
このゲームセンターの店員か。
「あの。彼女のことについて」
店員の顔が、曇った。
しかし。確信に近いものが、ある。
「彼女から、聞きました。この、村の、こと」
「そうですか」
「この村の。彼女のことについて、聞きたいんです。どこに行けば」
「ちょっと待ってください」
店員が、奥に消える。
そして、通信端末を片手にゲームセンターから出てきた。
「ここに」
渡されたのは、小さなタウンマップ。赤い矢印がつけられている。
「町役場です。そこで、町長が会ってくれるそうです」
「ありがとうございます」
「あの」
ゲームセンターの、店員。
「いつでも、また、来てください。きっと、あの子もよろこびます。夜も空けておきますから」
店員も。彼女が夜にいることを、知っていた。いや、当然といえば当然か。
一礼だけして、町役場に急ぐ。いつ晴れてくるか、分からない。
町役場は、さびれていて、いい具合に光がなかった。
玄関のところに、若い女が立っている。
「どうも」
町長か。
「はじめまして。この町の町長です」
若い。彼女と、同じぐらいか。そういえば、ゲームセンターの店員も若く綺麗だった。そして、ふたりとも肌が少し焼けている。
「どうぞ。中の光は消してあります」
うながされるまま、役場に入る。光は消えていた。外見以上に、内側は小さい。机がいくつかと、あと、町長の部屋らしき場所。というか、区画。
「どうぞお座りください」
少し、緊張した。倒れるかもしれない。
「大丈夫です。高級な椅子ですから」
たしかに、革張りで高級そうではある。
座った。
大丈夫だった。気分がおかしくなる気配はない。
いや待て。
「なぜ俺のことを」
なぜ知っている。俺の光のこと。椅子のこと。
「ああ、そうか。知らないか。私は、プレインビテーショナルにいたんです。もちろん、倒れたときのことも」
「なぜ」
「あのゲームの出資者なので。外には言ってない情報ですが、筐体の開発もこの町の奥で行われていました」
おかしいと思ったが、すぐに考え直した。
たしかに、こんなに小さな町の小さなゲームセンターに、筐体が2つもある。最初から、前提が、違うのかもしれない。
「聞きたいことがあるかと思いますが、まずは私側の話を先に」
「はい」
観念した。ここに来た時点で、既に何かの大きな流れに乗せられている。
「この町は、とても小さく、村の頃からほとんど閉鎖的な場所でした。平和で、村民同士の仲もとてもよい」
だから、彼女のような人間が。湧いてきた怒りを、顔に出さないよう肚に押し込めた。
「しかし、それだけでは、色々と時代の流れには逆らえない。結局この村は町に変わり、色々とよくないものが入ってきそうになりました」
壊れてしまえ。こんな村など。
「それで、私が村長、いまは町長ですが、30年前に私が今の地位についたとき」
30年前。待て。この女、何歳だ。
視線で気付かれたか。彼女が少し話を止めた。
「私は47です」
「47」
信じられない。20かそこらにしか、見えない。
「そう。そういう村です。中規模の集団で血が巡った結果、優性のものしか残らなかったんでしょう。私も、地位に相応しい能力と頭があったので17から村長でした」
「そう、ですか」
「私は、そのときから中央に金を払って、そこそこにやり取りを続けてきた。そのなかで、町の形態を残すために目を付けたのが、クローズドな開発環境です」
だから、ゲームか。たしかに、通常の電子機器開発よりは産業スパイが紛れ込みにくいし、金も落ちる。
「私達は、あのゲームが発展することを望んでいます。既に、この町の奥で、新しい筐体の開発が行われています」
「新作が」
「この情報は、プレインビテーショナルで世界的に発表する予定でした。世界ランク1位の、あなたの手によって」
世界ランク1位の。俺の、手によって。
「俺が、プレ大会をぶち壊したから」
「はい。開発やプレスリリース、大会の発表など。すべてが送れています」
俺が、あのゲームを壊しているかもしれない。
「提案があります」
緊張はあるか。
自分に問いかける。
そんなに、緊張していないかもしれない。なぜだろうか。彼女に会って。彼女と話したから、だろうか。
「はい」
「もういちど、プレインビテーショナルを開きます。現ランクで」
現ランク。自分のランクは、今、どこまで下がっただろうか。
「ぜひ、もういちど世界ランク圏内に入って、プレインビテーショナルにご参加ください。そして、もういちど、大会と新筐体の発表を。世界最強である、あなたの手で」
世界最強。
ばかみたいな話だな。
世界最強は、彼女なのに。
「わかりました」
「助かります。下世話な話ですが、知名度や人気としては大きめの広告塔が必要なんです。大会が軌道に乗る最初だけでけっこうですので」
「ただし。条件があります」
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