第3話

「閉まってたのか。分からなかった。急に電気は落ちたけど、筐体も自販機も使えたし」


 男のひと。自販機で買ったエナジードリンクを、水と交互にちびちび飲んでる。この飲み方。


「やらないの?」


「いや。そっちのコンピュータ戦を見ていたい。まだ本調子じゃないんだろ?」


 言葉。初対面なら、敬語使えよ。わたしが女だから、なめてんのか。


「あ?」


 しまった。にらんでるの、ばれた。


「あ、ああ。もうしわけない。そちらが敬語ではなかったので、つい」


 よろしい。

 ゲームセンターには特有のルールがあるのだ。ないけど。あるのだ。


「ああ、でもどうしよ」


 この状態でコンピュータ戦しても、意味ないな。


「どうしました」


 細マッチョが、近寄ってくる。近づいてくんなころすぞ。


「いや、対人が」


 ちょっと、いじわるな気持ちになってきた。おい。近づいてこいよ。わたしのパーソナルスペースに入らない距離で止まってんじゃねぇよ。


「あの」


「はい」


 近づいてこないのかよ。


「いや、近づいたらころすみたいな目で見られたので」


 あ。わたしのせいか。


「あの。対人、やりませんか?」


「対人」


「もともと、ランク戦行ってウォーミングアップしようかなって、思ってて。せっかくだから」


「では、遠慮なく」


 細マッチョが、隣の筐体に座る。

 対人戦。ローカル。隣のひとと対戦を押す。

 いじわるな気持ちは、薄らいできていた。遠慮なくって言ったよな。じゃあ、遠慮なくころしてもいいよな。


「ん」


 対戦相手。

 サイドボードにあった名前。

 alternative 7081。最上位ランク、そのさらに最上位。トップランクの称号。


「まぁ、そうか」


 あれだけコンピュータ戦で強かったし。トップランクのひとでもおかしくはないか。

 対戦開始まで。


 5。


 4。


 3。


 2。


 1、


 うん。

 ちゃんとランク相応に。

 いや、ランクよりは相当に、強い。表示されているランクの、さらに上ふたつぶんは、強い。なかなか。


「つよい」


 うん。まぁ。わたしつよいし。


「まさか、こんなところにいたとは」


「ん?」


「ランクマッチの悪魔」


「ランクマッチの悪魔?」


「不定期に夜中に現れて、ランク最上位や一位ですら簡単に負けてしまう、システム上で生み出された最強コンピュータ」


 コンピュータ。いや、わたし、ひとですけど。


「そうか、名前がおかしかったのは、最初からその名前で」


 あ、はい。てきとうな名前で、しかもときどき気分で変えてます。


「もう1戦、よろしいですか?」


 なんか。へんだな。


「いいですよ。その代わり」


 相手がちょっと緊張する。


「負けたら敬語やめてください」


 なんか、敬語のほうが気になる。それに、1回動きを見たら、まず次は負けないし。

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