第2話

 わたしの番。

 というか、ずっとわたしの番。

 閉店後の店内。治安が無駄に良いので、警備とかそういうのもない。店の扉に鍵もかけない。ただ店員がいなくなって、電気が消えるだけ。筐体は動く。トイレとか自動販売機も使えるまま。


 とはいえ、あんまり、良い気はしないので。なんとなく対戦したくなったときぐらいしか、夜には来ない。

 今日は、ひさしぶりに、対戦の日。

 コンピュータ戦のスコア。サイドボードに、割り込まれた。少し対人戦で、感覚を研ぎ澄ましておこうかなって。その程度の理由。


「あれ」


 動いてる。

 ひとがいるのか。

 コンピュータ戦。メインボード。上手い。相当に上手い。ただ、その攻略のしかただと、確実に数体は取り逃す。

 メインボード。戦いは続く。


「そこ」


 思わず、声を出した。


「左じゃなくて、右。大きく回って、ビルの影」


 メインボード。左の最速に回ろうとしたのが、右に。大きく回って、ビルの影。


「正面。自信がないならサイトで。SE大きめのビルの下。あと5秒」


 サイト(照準)を出して覗き込んでる。


 1。


 2。


 3。


 4、


「撃って」


 当たった。

 たぶんこれで、敵を取り逃すことはないはず。

 メインボード。その後も、上手に敵を倒していく。


 最終スコア。全体の19位だった。10位以内はわたし自身でも破るのがむずかしい自己ベストなので、まあ、それよりも下ぐらい。サイトを使ったのと、右にすぐ旋回しなかった分のタイムロスが少し響いてる。でも、それぐらい。他の部分では、ちょっとびっくりするぐらい上手かった。正面のランダムな敵に対する反応は、わたしより上かも。


「参った。まさかコンピュータ戦で角待ち(角のほうで敵が来るまで待つ戦法)が有効とは思わなかった」


 男のひと。

 暗がりだけど、なんとなく分かる。やせてる。頬が少し不健康な感じ。身体の細めな筋肉感とは、ちょっと乖離してる。身体はしっかりしてるのに、顔が暗い。


 譲られた。

 わたしの番。

 そっか、わたしの番か。

 困ったな。ひとがいると、ランク戦できないんだけど。

 どうしよう。モード選択。かといって、この上手さだと、わたしがサイドボード上位の人間だってばれちゃう。


「やらないのか。コンピュータ戦」


 あ。

 そっか。

 さっきメインボード見ながらアドバイスしてて、ばれてるのか。

 じゃあ、仕方ないか。


 コンピュータ戦が始まる。


 5。


 4。


 3。


 2。


 1、


「あ」


 ぜんぜん、集中してない。

 ランク戦して集中させようと思ってたし、なによりひとがいるし。


「ああ。だめか」


 スコアを確認する。

 18位。ダメなわりには、そこそこ伸びた。なんでだ。


「凄いな」


 メインボードのほう。頬のこけた細マッチョが、メインボードとサイドボードを腕組みで見てる。椅子あるんだから座ればいいのに。なんで立ってるの。


「どうぞ。続けてくれ」


「あ」


 いや。他にも筐体あるから、勝手にやればいいのに。


「いや、その前にひとつ」


 なによ。続けろって言ったじゃない。


「ここのゲームセンター。何時に閉まるんだ?」




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