少しだけ青すぎた





 なつかしい、ゆずの匂いがする。

 なつかしい、ゆず畑が広がる。


 青ゆずや黄ゆずを収穫したな。

 ゆず風呂に入ったな。

 ゆずとりんご煮を食べたな。

 ポン酢しょうゆでお鍋を食べたな。

 誰かと一緒に。


 馬のいななきが響き渡る。

 とても近くで。

 まるで僕が発しているみたいだ。

 駆け走る音も聞こえる。

 地に深く、奥まで轟く、逞しい音。


 地?

 いいや、ここに地はない。

 あるのは。

 あるのはそう、僕が作った玉。

 何か。

 ゆずかな。

 強い想いが籠められた、丸い、色々な形と色が描かれた。

 でも。

 次から次へと、木っ端微塵に破壊した。

 一個二個三個。

 あれ、何個目だっけ。

 忘れちゃった。


 僕も。

 僕も本当は。

 木っ端微塵に破壊したんじゃないか。

 感覚がないんだ。

 いいや。あるか。

 ふわふわしている。

 とても。











 声が聞こえる。

 馬のいななきの合間に。

 どこかで聞いた声。

 でも、聞いた事のない声。

 泣かないで。

 咄嗟に願った。

 泣かないで泣かないで、泣かないで。


 あなたも僕も。


 泣かないでよく見て。










「少しだけ」


 およそ十年ぶりの地球は。

 初めて宇宙から見る地球は。

 僕にとっては少しだけ青すぎたよ。











(2022.8.23)


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