今も知らず





「よしできた」


 一個作り終えてから、片手で持ち運べる大きさと重さの手作り地球儀を数える。

 百三十八個。

 目標の数に達したんだ。

 僕は最初に作った地球儀を持ち上げた。

 楽勝で作れると思ったけれど、世界の国名を半分しか覚えていないわ、その半分しか位置や形を把握してないわ、こんなところに海があったっけと驚くわで、魔術師に教わりながら作ったのだ。


「うわー、へたっくそ」


 苦笑を零したあと、スッと真顔になって地球儀をビー玉の大きさに変化させて、リュックサックに大事に入れた。

 










 召喚の時の道を使わないで地球に帰れる方法はないですか。

 姫と執事さんを見送って、静かに涙を流して出し切ったあと、僕は魔術師に尋ねた。


 この異世界で生きていくと決めた。

 だからこの世界で生きながら、地球に戻る道を探す。

 例えば、最終的に帰れなかったとしても。

 諦めたくはない。


 じっと見つめてはや三秒で、あるよとあっさり肯定された。

 

『お願いします。教えてください』

『うーん。いいけど。あんまりお勧めしないよ。だって、地球に辿り着くまで一瞬も気が抜けないし。死ぬよ絶対』

『死にません』

『いいや、死ぬかもって思っている。だから姫に家族への手紙を託した。自力で戻るって強い意志があるなら、姫に待っていてくださいって言うはずだよね?』

『否定はしません。戻れないかもって思ったから、姫に手紙を託しました』

『じゃあもう戻れなくてよくない?生活も保障されているわけだし。地球がある方向を見つめながら、姫と執事さんと家族を想って、今日も元気にやってるよって呟いて、馬に乗って駆け走ればいいんじゃん』

『嫌です。嫌になりました。だからお願いします』

『………んー。じゃあ。姫の父親と僕の師匠がいいよって言ったらね』

『いいよ』


 魔術師とは違う声が後ろから聞こえて振り返ると。


『コーヤ?』


 純黒の瞳、純白の睫毛、額、鼻梁、鼻端、まえがみ、尾毛、あとは勿忘草色に身を包んだコーヤがそこには居た。


『そう。コーヤ。魔術師の師匠』

『え?』


 口を動かしているわけじゃないのに、言葉が聞こえて目を丸くした。


『姫の父親。某が説得する。だから。修行。始める』

『あー。がんばってねー』

『え?あ。頑張ります!』


 ひらひらと手を振る魔術師に宣言してから、地獄の特訓が始まった。











(2022.8.23)


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