幻と現と未





 雪花山の幻に取り込まれていた間の出来事だろうか。

 それとも、単たる夢だったのだろうか。

 どちらにしてもあり得ない話だ。

 とても現実味があったけど。


 だって。

 高校最後の夏休みに入る前に、姫と執事さんが転校してきて、僕と高校の友達とすぐに打ち解けて、夏休みの一日を一緒に過ごすなんて。

 たった一日で。

 川に行って、海に行って、山に行って、祭りに行って。

 急降下の滝滑りをして、浮き輪でぷかぷか浮いて流されて半泣きで自力で戻って、自分たちで掘った温泉に入って、アマリロ、コーヤ、ダイブーや他の馬に乗って山を駆け上ったり下ったり、スイカ割りをして、焼きそばやたこ焼き、はし巻き、いか焼き、ベビーカステラ、わたあめ、かき氷とかの屋台の食べ物を両手にいっぱい持って大きなおおきな花火を見て。

 いっぱいいっぱいはしゃいで。


 たった、一日で全部。


  





 全部、叶えたいと思った。







『あのさ。地球に着いたらこれを郵便ポストに出してほしいんだ』


 あの方から受け取った手紙の住所を頼りに辿り着いたのは、高知県馬路うまじ村。

 馬がたくさんいるところだと思っていたのだけれど、ゆずという果実とわたくしたちの背よりとても高い木と遥かに高い山がたくさんあるところだった。


「ここがあの方の実家なのですね」


 わたくしは後ろに控える執事を一瞥してから、あの方の実家の呼び鈴を鳴らした。


(わたくしは諦めません)











(2022.8.22)


 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る