未だ知らず





 この世界に異世界の、姫と執事さんが永住する先の異世界の人間を召喚するのは、現地の人から生きている情報を得て心構えをする為と、まあ少しでも仲良くなれたら姫と執事さんも安心するんじゃないかっていう親心もあるのかな。

 え?何で姫と執事さんは異世界に行くのかって?

 そりゃあ、学習と情報収集の為だよ。

 この世界をより良くする為に。

 実際に行かないとさ分からない事なんて盛りだくさんだから、姫と執事さんに行ってもらって、いっぱいいっぱい学んで情報を送ってもらうわけ。

 そう、一生をかけて。

 行ったら最後、もう帰って来れない。


 本当ならさ、君も一緒に姫と執事さんと行けた、違うか。帰れたんだけど。うん。今までの人は帰れてたんだけど。

 さっき言った通り、君の道は完全に閉ざされて帰れない。

 ごめんね。けど、姫の父親がこれまで通り、生活は保障するから。


 それ。地球儀。私が作ったんだ。

 うん。地球の情報はあるよ。

 え、なら、現地の人間を召喚する必要はないって?

 いきなり召喚される君たちにとっては迷惑極まりないよね。

 でも、うん。やっぱり、姫と執事さんを安心させる為に必要なんだよきっと。


 そうそうそれでその地球儀さ。

 姫の父親に急かされてさ作ったんだよ。どんなところなんだって。

 生物も無生物も豊富で、気候も生活も多種多様で、美しい星だって知って、ほっとしていたよ。

 まさか君に手渡しているとは思わなかった。

 姫の父親の謝罪の気持ちかな。

 記憶を取り戻せるようにって。

 元の世界に帰せなくてごめんなさいって。


 記憶は全部取り戻したの?

 多分か。

 その間に、いや、記憶を取り戻してからも、姫にも執事さんにも、色々情けないところを見せちゃったんだよね。

 だから今。

 このさいごのときに。






「君は泣かなかった」







 姫と執事さんを見送ってから、私は静かに涙を流す異世界人の肩に手を添えたのであった。









(2022.8.22)


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