第36話 元凶?

倒れた魔物が何か持っていないのか、汚れた身体を漁る。本当はこんなことなんてしたくないんだけど・・・


そう思いながら隅々まで確認すると鱗に布の切れ端のようなものが引っかかっていた。


「これは・・・明らかに人が作ったものだけどこれがあったからと言ってこいつが人間って言えるわけじゃないんだけど」


何とも言えない感じの成果に戸惑う。うーむ、こういう時は・・・


『私を頼りたそうですね。ご安心を既にこの魔物について分析中です。もう5分ほどすればこちらからお伝えしようする予定でした』


そして待つこと5分、時間通りに分析が完了する。時々こいつは本当はコンピューターなのか?と疑いたくなるいう正確さを見せてつけてくる。一体俺の頭のどこにそんな要素があるんだろうな。


『分析の結果、この姿は後天的ですね。前の姿まではわかりませんが魔法のような何かで変えられたと考えるのが妥当と思われます』


(つまり元人間って可能性が高いということでいいんだな?)


『そうですね、状況証拠からはそう判断するのが自然ですが決定的な証拠はありません。例えば人間を模して造られた魔物のような可能性もありますね』


そんなものができるならなんでもありだなと思ったが今の状況が既にそれに近いため可能性は可能性として切り捨てない方がいい。俺は最終的にそう判断した。


「・・・はぁ、それにしても一人きりってのはやっぱり寂しいな」


一難去って急に静かになった辺りを見てふと呟く。もちろんこの声を誰も拾ってはくれないのだが。


『ご主人のストレス的にも早めに戻ったほうがいいかもしれませんね。まだ時間的余裕はあるのでこのクレーターの先がどうなるかは見ておきたいですが・・・』


このクレーターの向こうの方が魔素の濃度が高かった場合はここが元凶でないことになる。ここに何もない以上その可能性の方が高いようには思うが・・・


(いや、行くよ。しばらくここには来たくないからね)


内心は行きたくなかったがもう一度行く方がもっと嫌だったので仕方ない。ぐるっとクレーターの周りをまわり、アンデレに魔素の濃度を測定させる。いわゆる待ちの時間が結構多かったので正直暇だった。


「結局いなくなった人がどこに行ったのか分からないままだったな。この辺りを彷徨っているのかなぁ」


見つけた個体はわずかに1つ、適当に散会しているならもう少し出会わないとおかしい。それはつまり何者かが意志をもってどこかに集めている、と考えるのが自然なのかなぁ。


『しかし、そんなに魔物を集めて何をするんでしょうか。人類に対して攻撃をしたいのならばもうとっくにしていてもおかしくないです。何かできない理由でもあるのかそれともする必要すらないのか・・・ここで考えていても仕方ありませんね』


そんな感じでアンデレとの会話をしているうちに測定が終わったようだ。


『ここが一番濃度が高いですね。もしかしたらクレーターの下に何かあったのではないでしょうか?』


(また登るの?もう嫌なんだけど)


『また来るよりはいいと思いますが・・・来てすぐにクレーターの内部に向かったのは失敗でしたかね』


まぁそれを言われたらそうなんだけど・・・


(でも確かに守りが他と比べて厳重だったな、もう一度調べてみる価値はあるな)


再びクレーターを調べること数時間。ついにクレーターの地面奥深くに何かを発見する。期待と不安が入り混じる中、ゆっくりとそれを掘り出す。


「なんだぁ?これはあまり良いものには見えないな」


目の前にあるものは何かの球のようなものだ。不思議と生きているかのような力強さを感じて不気味にすら感じる。


『すぐに手放したほうが良いと思います。少なくとも解析完了するまでは距離を置いてくれると助かります』


ここまで強く言われるのは珍しいな。いつもは提案の域を出ない言い方しかせず、あくまで俺の決定にどうこういうことはない。そういうものなのだ。


(わかった。そうするよ、何か良くないものを感じ取ったんだな?)


『おっしゃる通りです。目の前の球は小さいですが、他とは違う何かを感じます』


解析自体はすぐに終わり、報告を聞こうとしたのだが、アンデレはらしくなく、中々言い出さない。


(おいおい、早く言っておくれよ。何か不味いことがあるならすぐに行動しないといけないんだからさ)


『そ、そうですね。私としたことが・・・コホン、では結果から。今すぐにこの場を離れたほうがよさそうです。クレーターの外に出てから続きを話します』


言われたとおりにクレーターの外側に移動し、続きを待った。


『とりあえずこの辺りでいいでしょう。先ほどまで目の前にあった物はどうやら今回の異変の原因とみて間違いなさそうです。中にはおそらく強力な魔物が封じられています。どれほどの魔物かはわかりませんがこの辺りに振りまかれた魔素の量から想像するにかなり強いことは間違いないと思われます』


(なぁ、それなら封じられているうちにあの球壊せばいいんじゃねぇのか?)


『今の貴方、いえ人類に壊せるような代物ではありません。あの球に封じられている魔物が覚醒た後であれば壊せるかもしれませんが・・・』


(まぁとにかくあれはヤバいもので壊せないけど放っておくとそのうち何かが産まれるってことだな?)


『はい、その通りです。今できることは産まれた魔物に対してどう対抗していくか、考えることです』


まぁ、本来の目的はそうなんだけどよぉ、これの対策始めてたら時間全て奪われないか?


(とりあえず欲しい情報は手に入ったかな。まだ足りない物もあるけどもう戻らないと。そこから考える。これでいいな?)


『その決定に関して私がどうこう言うつもりはありませんがその判断がよさそうですね。そうと決まればさっさと戻りましょう。お二人を待たせ過ぎるのもいけませんからね』


そんなこと言うのは珍しいなと思ったが確かにあまり待たせるのは良くないなとも納得し、来た道を戻り始めるのだった。

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