第34話 不毛の地で
朝日を感じ目が覚める。本来なら眩しさを感じるが、辺りが微妙に暗いせいか逆に心地よい明るさになっていた。
「うーん、ここ何年かで一番快適な目覚めなんだがな・・・」
辺りは生物どころか植物一つ生えていない。まさに不毛の土地だ。
『魔素に抵抗のあるご主人様だけですよ。こんな場所で呑気に寝れるのなんて』
他に誰もいないことが謎の安心感を生んだ。誰かといると無意識に気を遣うもんなぁ。
『さて、さっさと進みましょう。本格的に進んでいけるのは今日までですからね』
タイムリミットは4日後、帰りのことも考えると今日発見が無ければ失敗と言っていい。十分に休んだのもあってあまり悠長にしている時間は残されていなかった。
まだ眠気の残る頭を搔きながらひたすら歩き続けた。魔物に対する警戒も気づけば怠っており、傍から見れば無防備な冒険者だ。
『少し無防備すぎませんか?魔物の気配をこの1日感じてはいませんが未知の領域にいることは確かです』
(それはそうだけどよ、面倒になってきたんだよねぇ。こんな状況でずっと気を張っていると気が持たないように思うし、言いたいことはあるだろうがここはこのままいくよ)
時間感覚も怪しくなってきたが丁度正午になった頃、辺りの様子が今までと明らかに変わった。
急に目の前に積みあがった岩や土が現れたのだ。しかも見た感じ前からたあっというわけではなく、不自然に、つい最近できたといったように見える。
「もしかして、辿り着いたのか?」
『危険ではありますが登ってみますか?時間はまだ余裕がありますし』
ここでそのまま引き返してはもったいないの精神が勝り、半ば崖ともいえる積みあがった山を登り始めた。
意外と頂上は高くなく、5分ほどで一番高い場所にたどり着く。そして目の前の光景を見て思わず驚く。
登ってみてから気づいたがどうやら巨大なクレーターのようになっている。そしてクレーターの内側は深い穴の様になっていて奥がどうなっているかは見えなかった。
(パッと見た感じ中に魔物がいるわけでもなさそうだな。もう少し進んでみるか)
不安ももちろんあったが好奇心の方が勝ってしまい。結局進むことを選択する。ここまで来た以上、時間切れかよほどのことが無い限り撤退ということはありえないのだが・・・
ゆっくりと慎重にクレーターの内側の斜面を降りていく。斜面は外側に比べて脆く、気を抜くと滑り落ちてしまいそうだ。
(それにしても中々底が見えないな、どこまで下りればいいんだろう)
不安を感じだしてきたとき、足元の感覚が急に変わる。どうやら底に着いたようだ。
辺りを見回してみるが、全く何もない。いや、厳密にいえば何かはあるんだろうが、少なくとも俺の知覚できるものではない。
「もっとこう・・・異変の元凶みたいなものがいてもおかしくないんだけどなぁ。それか大地の裂け目みたいなものとか」
肩透かしを食らったような気分になり、今まで目指してきたものは何だったのかという喪失感に襲われる。
『一先ず冷静さを取り戻しましょう。まだここで調べれることはあると思いますよ』
気を取り直して辺り一帯の調査を開始する。凸凹ではあるが足跡一つない場所を歩くのはなんだか不思議な気分だ。誰もいない世界に迷い込んだかの用にさえ錯覚してしまいそうだった。
足音だけが鳴り響く状態が1時間ほど続き、ようやくクレーターの中を周り終える。
「思ってたよりも大分広かったな。その分何も無いのが気がかりなんだがな」
『ここは既にもぬけの殻といったところでしょうか。それとも何か別の理由でもあるのでしょうか』
言わんとしていることはわかるが分からないということしかわからなかったのだ。
「さて、もう帰ろうか。ここから新しい場所に行くのも無理だろうからな」
降りてきた場所から上へと登っていったが降りる時と違って果てしなく遠く感じる。降りるときの方がどこまで行けばいいか分からないから精神的な負担が大きかったはずなのに、だ。
暫く登り続けていると急にアンデレが驚いた声を出す。
『もしかすると・・・同じところを周っているように感じます』
そんなことがあるのか?と疑問に思ったので試しに目印となるようにそこら辺の岩に傷をつける。そして見逃さないよう慎重に登り続けていると10分もしないうちに再び目印となる岩を発見した。
背筋が凍り、すぐさま登ることをやめ、ゆっくりと降りていき、クレーターの底を目指した。
底に戻るのは一瞬ですぐに先ほど見ていた光景に戻る。明らかに普通じゃない状況なので何者かに干渉されたのだろう。
(やっぱり何かあったのか。可能性でもいい、何か分からないか?)
『しばらく時間を頂けますか?』
(あぁ、速さより正確さ重視で頼む)
現在進行で攻撃を受けているわけでもないのでゆっくり構えることにした。
(それにしても・・・いよいよなのか?)
疑問は増えるばかりだが見えない敵との戦いが始まろうとしていた。
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