第33話 俺が行かないと
「・・・よしわかった。俺一人でいけるところまでは行ってみよう。そしてこの街に5日後にまた戻ってくる。それまでに戻ってこなかったときは引き返してくれ」
「いいの?一人でいけるほど甘い世界じゃないと思うんだけど」
「どうせこの街にとどまっていても何も得るものはないだろ?それに気になっていたこともあるんだ」
「ふむ、当ててやろうか。街の外に出ていった人が魔物にやられた形跡がない。これじゃろ?」
流石アンナだ。こういうところは抜け目ない。
「そうだ。昨日街の探索中に南側の出口に通じる道を見かけたんだが、そこには何もなかった。俺達の推理では街の人達は南に向かっているということだが街の外で魔物に襲われないってのも何かおかしいだろ?」
「・・・ねぇ、もしかしてだけどいなくなった人たちって魔物に変わったとか有り得たりするのかな?」
「その可能性は俺も考えてた。でもそうであってほしくないとは思っている」
「話を戻そか。我は待つ分には構わん。5日程なら食料も持つしの。定期的に空気の入れ替えをすればここに折れるんじゃろ?」
「そうだな。2日に1回くらいすれば大丈夫だろう。2人には危険な環境で待ってもらうことになるが・・・本当にいいのか?」
「私は大丈夫だわ。ここまで来たんだもの何かしらの手がかりを持って帰りたいわ」
「我は先程と同じじゃ。お主が行くというなら止めはせぬ」
2人の優しさに思わず目頭が熱くなる。なんだろう、この感じ。
「おいおい、泣くでない。そんなのでは心配になるぞ」
慌てて涙をぬぐう。経緯はどうであれ待っててくれる人がいるってのは有難いことだな。
「わかった。なるべく安全を重視して見てくるよ。準備も何も無いから今からでも行こうと思うけど、何かあるか?」
「我は特にないぞ。さっさと行くがよい」
「私も大丈夫だわ。本当は私も行きたかったけれど・・・足を引っ張るくらいならここに残るわ」
「じゃあ今から行ってくる。さっきも言ったけど5日で戻ってこなかった時は・・・頼むぞ」
正直5日というのも結構我儘だ。しかし、俺の見回れる距離と彼女達に待ってもらうリスクを考えた時、この辺りが妥協点だ。
旅立つ決心をした俺は館を出、街から旅立った。
魔素の濃度は相変わらず高い状態が続いているようだ。俺自身は苦しくなったりはしないがなんだか気持ち周囲が薄暗く感じる。いよいよ人が住めれないと確信できる状況になってきた。
『もうあなた以外の人間は立っていることすらままならないでしょう』
(そんなになのか。まぁ周りを見ても草一つ生えていないし魔物の姿すら見えない。ちょっと怖いくらいだ)
街を出てからしばらくの間は魔物の姿を僅かに見かけたが今となっては魔物の姿すら見えない。最早魔物にとっても過酷な環境になってしまったのだろうか。
(なぁ、このまま進んでいったらどうなると思う?)
『そうですね、地震の震源までたどり着くのではないでしょうか?』
こんな視界の悪い中でそんな場所に行って大丈夫か?と不安に感じつつ、日も暮れてきたので1日目の探索を終える。
街からはかなり進んでいて、正直方向感覚も失いそうなくらいだが、アンデレが道を覚えていてくれているおかげで今のところまだ帰れるそうだ。
(今回ばかりは感謝しか言葉が出てこないよ。正直まっすぐ進んできたつもりだけどこんな中だ、少しずつずれていったってなにもおかしくないんだ)
『そうですね、当初の予定よりやや東に進んではいますが誤差の範囲ですよ。ここまで正確に歩いてこられたのはあなたの実力ですよ』
(・・・ふと思ったんだけどさ歩いている途中に修正してくれたりはできるのか?)
『いえ、周囲の地形と時計、星空の様子から現在地を計算するまでに時間がかかりますので残念ながら無理です』
(そうか、無理を言ったな・・・さて、今日は寝るとしよう。何かあったら起こしてくれ)
昔一度だけ寝ている時にアンデレに起こしてもらうというのをやってみたことがある。その時はかなり強引に話しかけてきたので最悪の目覚めと言ってよかった。できればそんな起こされ方したくはないが今頼れるのはこいつだけだ。
(じゃあ、おやす・・み・・)
旅の疲れが蓄積していることもあって眠気に全く抗えなかった。
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