第32話 もぬけの殻

「ん、もう朝か」


外からの日差しにより目が覚める。しかし、他の物音は一切せず、不気味さを感じるほどだ。


それもそのはず、今俺達は無人となった街にいるからだ。


『おはようございます。元気そうですね。あなた以外のお二人はまだ寝ているようです』


(そうなのか、俺も疲れていたしあいつらもそうなのだろう)


急いで行動しても仕方ないので再びベッドへと戻る。やっぱりふかふかのベッドはいいなぁ。気持ちよく寝れたのはこれのおかげでもあるよなぁ。


そんなこんなで30分程ゆっくりとしていると別の部屋から音が聞こえ始める。どうやら目覚めたようだ。


(まぁ準備できたらこっちに来るだろ)


そう思って再びゆっくりすること20分、ノック音が部屋に響き渡った。


「おう、入っていいぞ」


扉は勢いよく開けられ、2人が部屋に入ってきた。


「どうだ?ゆっくり休めたか?」


「そのセリフ私が言いたかったんだけど」


「確かに、ここはお前の両親の屋敷だもんな・・・さて、これくらいにしておこうか。昨日はこの街に来たばかりで色々と困惑した部分もあるだろうが今日からはしっかりと計画して行動していきたいと思う」


「それには賛成じゃな。お主以外はあまり自由に動き回れぬからの」


「どうします?ここに来ることが目的だったからあまり考えてなかったのよね」


「うーむ、高濃度の魔素を浴び続けてたらどうなるのかってのを試したいけれど流石に俺達で試すわけにはいかないからな。何か良い手はないのか」


「これは仮説なんじゃが・・・魔素に対する耐性も個人差があるのでは?もう一人のお主よ、どうなんじゃ?」


『確かに、個人差はあります。ほとんど誤差程度と言っていいですが』


「個人差はあるけど誤差程度みたいよ」


「その少しの誤差でも身体に異常が出るまでの時間に差があるならそれについて何か記録を残したものがおるかもしれん。どうじゃ?」


「そうだな、人の日記とかを見るのは少し気が引けるが今はそんなことを言っている場合じゃないな。よし、まずはこの屋敷を調べたいんだが・・・いいか?」


「今回は仕方ないわね。ここを見なくても他の人のを見ることになるでしょうし」


許可を貰ったので早速、そういった記述が残っていないか探すことにした。


ユカの案内の元、各人の寝室や書斎などを漁り、何か資料になりそうな物が無いかひたすら探した。


「うーん、これも普通の日記か。やっぱりそう上手くいかないもんかね」


使用人やユカの家族の部屋を1つ1つ見てはいったが思うような成果は得られなかった。


「後はユカの両親だけか・・・」


諦めの雰囲気が皆から感じられていたが歩みを止めるわけにはいかない。気持ち重く感じる腕を動かしながら必死に探した。


「あった、これだわ」


ユカが日記のようなものを見つける。とは言っても隠されている感じはなく、引き出しに入っていただけだ。しかも開いた状態だ。


「これは・・・」


俺達が近づくより前に開いているページをユカは真剣な目で読んでいた。


「どうしたんだ?何かヒントでもあったか?」


「ちょっとこれを読んでみてよ」


そう言ってそのまま本をこちらへと見せる。そこにはこう書かれていた。


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5月12日

大地が大きく揺れ、人々は不安を感じている。正直私も不安だ。しかし、他に影響はないのでしばらくすれば落ち着くだろう。


5月13日

昨日の読みは大きく外れていた。どうやら魔物が大量発生しているらしい。他の街に救助を求めたいが街の防衛で精一杯だ。この街はいつまで持つのだろうか・・・


5月14日

人々がどこかに失踪することが多発しているらしい。ここの使用人もそうだ。一体何が起きているのだろう。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「・・・これが本当ならこの街に人がいないことの説明はつくわね」


「ふむぅ、やはり魔素に長時間あてられると駄目そうじゃな」


「とりあえずこの街にはもう誰もいないってのはほぼ確定ってことでいいのかな?」


「まぁそう考えていいじゃろう。この街に留まっておく理由もなくなりそうじゃの」


「そう・・・ね」


ユカは悲しそうに答えた。最悪の結果は避けれたのかもしれないけど状況が良くなったわけではない寧ろ悪くなっているともいえる。


「うーん、とはいえどこに向かって行ったかは分からないからなぁ。強いて言うならもっと地震のあったほうに行っている可能性の方が高そうってくらいか?」


「まぁ逆に行っていたらここに来る前に何か気づいてた可能性もあるからの」


「ただここからもっと進むのは・・・」


「まぁお主はいいじゃろうが我らは無理じゃな。もし行くとするなら一人で行くことになりそうじゃな」


確かにそう・・・なのだが俺一人で行くべきなのか?決断を迫られていた。

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