第3話 停止

 動く歩道になってから、4年近くが過ぎた。

 彼が17歳くらいになったときだろうか。

 初めて彼以外の人間がやってきた。おそらく彼の父親だろうか。言い争いをしているように怒鳴っている。

「お前は私の言う通りにすればいいんだ!」

 父親らしきでっぷりと太った同じ髪色の男は少年を怒鳴りつけていた。

「うるさいな」

「いいから、経済学部へ行け。お前は社長になるんだ」

「……」

 少年は、逃げるように動く歩道に飛び乗った。そして、いつもは動かず進む道を逃げるように走りながら進んだ。

 

 この日以来、少年は、更に暗い表情をするようになった。4月ごろ大学パンフレットらしきものを持っていたし、格好もほとんど私服になり、教科書も変わったため、恐らく大学には合格したのだろう。しかし、彼はいつも憂鬱な顔をしていた。いつの間にか、彼の大好きな歌も歌わなくなった。

 ある雨の日のことだった。

 彼は、「死にたい』と呟き、崩れ落ちるように歩く歩道で座り込んだ。

 何が起きたのだろうか。だけど、彼が死んでしまうかもしれない。

 このまま彼を向こう側にいかせてはいけない。

 止まれ、止まれと必死に願うと動く歩道は止まった。

 

 驚いたように少年は、顔を上げた。


 疲れたなら、人生に止まっていいんだ。

 休んでもいい。

 道を踏み外してもいい。

 だけど、死んだらいけない。

 自分だってそうだ。

 そうだ。死ぬくらいなら、もっと休めばよかった。

 好きなことをいっぱいすればよかったんだ……。小さい頃から、漫画家になりたかった。だけど、数回投稿して自分には才能がないとあきらめてしまった。

 もっと頑張ればよかったな……。

 

 少年Aは、止まった歩道の上で、うずくまって大声で泣き出した。

 

 それは、まるで産声みたいに大きな声だった。



 その日を境に、動く歩道は動かなくなった。そのため撤去されることになった。少年Aは、修理できないか父親に相談していたが、父親は新しいタイプのものにしたがっていた。

 そして、解体工事に着手された途端に、僕の意識は深く沈んでいった。

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