第2話 美少年がやってきた
太陽が高く昇り昼近くになっても誰も来なかった。ちなみに、動く歩道である僕の上には屋根がついているため、日差しはそんなに降り注がない。
夕方になりかけたころ、一人の少年がやってきた。色素の薄い茶色の髪に柘榴色の瞳をした美しい少年である。年は12、13歳くらいだろうか。半袖シャツに灰色のズボンというどこかの私立の中学校の制服みたいな服を着ている。彼は、ひどく悩まし気な顔しながらやってきて、動く歩道に乗るとため息をついた。そして、そのまま自分の足で動くことなく進んでいった。
そして、その後向こう側にある小さな家らしき場所に入り消えた……。
次の日の朝、同じ格好をした少年が現れ向こう側へと歩くことなく動く歩道で運ばれた。
そして、その日の夕方に彼は戻ってきた。
そのようなことが、更に3回ほど繰り返されてようやく気がついた。
僕がいる場所は、どこかの金持ちの家だ!!そうして、この動く歩道を利用する人間は彼一人だ。ここは、彼の部屋と、家族の家を繋ぐ空間だ!!!つまり僕は動く歩道になったのに、パンツの一つを見る機会もないのである。
絶望が押し寄せてくるが、悲しみを表現する手段もない!!
* *
動く歩道になってから、半年が過ぎた。
利用者である少年のことは、少年Aと心の中で呼んでいる。少年Aは、動く歩道に乗っているとき、たまに歌を歌う。それは聞いたことがないけれども、素敵なメロディーだった。
歌を歌っているときだけ少年Aは、楽しそうだった。それ以外の時は、いつも憂鬱な瞳をしていた。
彼がゆったりとした曲を歌っている時は、少しだけ動く歩道をゆっくりと進ませて彼のメロディーに合わせていた。
肌寒い日、少年Aは高そうな子供用のコートを着ていた。
その日、少年Aは動く歩道に乗った途端に泣き出した。何が起きたのかわからなかったし、当然聞くことすらできなかった。
ただ肩を震わせ、しゃくりあげなげながら泣きじゃくっていた。彼の涙がぽたぽたと僕の上に落ちてくる。
自分が動く歩道であり、少年Aを慰められないことが悔しくてたまらなかった。
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