転生したら動く歩道になっていた!?
@satukikurobane
第1話 転生したら、動く歩道になっていた!?
いつも疲れている気がしている。
人生こんなつもりじゃなかった。こんな大人になりたかったわけじゃない……。だけど、気がついたら、毎日、毎日、うんざりするくらい奴隷みたいな生活を送っている。
大学を出た後、東京に上京した僕はとある出版社で働きだした。漫画や本は昔から好きだったし、出版社で働けることにわくわくしていたが、現実はただのブラック企業の社畜になっただけだった。
小説の推敲、資料のチェック、雑誌の枠組み、インタビューの文字起こし……ありとあらゆる雑用を押し付けられて、就職してから一か月で3キロ瘦せた。
それでも、せっかく就職したところだし、続けないといけないという思いで3年働き続けた。睡眠時間はろくにないし、遊ぶ時間もろくにない。時間がないから、ご飯はコンビニや、カップラーメンばかり……。もちろん彼女なんていない。友達と遊び時間すらない。残業ばかりで、たまにある休みの日は疲れて寝てばかりいる。毎日、辛くてたまらなかった。ここではないどこかへ逃げ出したかった。
5徹してふらふらになりながら、明け方の会社の階段を歩いているときのことだった。
もうすぐ帰れると思うと、ふっと意識が緩み、階段を踏み外した。
あっ。
気がついたら、抱えていた資料を投げ出しながら階段から真っ逆さまに落ちていった。
頭にゴンっ激しい衝撃が訪れる。
ああ……。僕は死ぬのか……。
こんなことなら、買ってからまだ見ていなかったAVを見ておけばよかった……。ああ。童貞を捨ててから死にたかった。漫画をもっと読んでおけばよかった。かわいい女の子と付き合いたかった……。ああ、生まれ変わったら、せめて女の子のパンツを生でみたいな……。
生まれ変わったら、楽して働けますように……。
こんな僕でも誰かの役に立てますように……。
目が覚めると、強烈な違和感がある。
自分では動いていないのに、身体が動いている。
黒い手すり、ベルトコンベヤーみたいな道、機械が動く感覚……。
何だ、これ……。
僕は……動く歩道になっていた。
え!?
えええええええええええええええええええええ!?
え?なにこれ。働きすぎで、ついに頭がおかしくなったのだろうか。これが、ワーカーホリックとかいうやつか……。
あれだ。空港とか、どっか駅近とかで見るやつである。
あの動かなくても、進んでくれる便利な乗り物である。
間違いとかじゃなくて、あの踏み面が階段状にならない水平型エスカレーターの通称で、ムービングウォークとか呼ばれているあれである。
2方向あるが、どちらにも僕の意識がある。
え?
どういうこと?
おかしいな?
いや、どう考えてもおかしい。おかしすぎる。
はやりの悪役令嬢とか、嫌われ子息とかが転生先としては妥当じゃないか。動く歩道になるとか聞いたことがないんだけど……。せめて、動物であってくれよ!!!!!
確かに『生まれ変わったら、楽して働けますように……』とか願ったよ!!自分で何もしていなくても勝手に動いているよ!!!だけど、こういうことじゃない!!少なくとも、動く歩道になりたかったわけじゃない!!そんなものになりたい奴がいてたまるか!!!
これは、あれか……。死ぬ直前に女の子のパンツがみたいとか願ったのがいけなかったのか?確かに動く歩道になれば、見放題かもしれないけれど、こういうことじゃない!!!そういう意味で願ったんじゃない!!!
あれ?いや、女の子すらいないんだけど……。ていうか、ここに誰もいないんだけど。ただただ動く歩道が百メートルくらいの空間を流れているだけである……。
え……。ここ誰か来るの?
誰も来ないんじゃないの?
まるで世界中に誰もいないかのように人がいない。
そよ風だけが僕を撫で続けた。
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