第15話 帰還する新星
アノマーノとセレデリナは2人で向かう。
とある山中の穴蔵へ。
そこは誰も近づかないような場所にある
「「「「
瞬間、幾多の人間の重なった声音と共に紙吹雪が舞い散る。
そこにいたのは〈
つまりは〈バードリー義賊団〉の面々であった。この100年の間に団員も増え、今や100人程いる様子。
しかし、当たり前であるがこの日に帰ってくるとは一言も告げていなかった。
おそらくバードリーは本気で信じていたのだろう。100年後丁度に、アノマーノが〈返り血の魔女〉セレデリナを倒して帰還することを。
「みんな、待っていてくれたのだな」
「はぁ、予想通りうるさい連中ね」
今日から始まるのだ〈ノワールハンド領〉奪還のための戦いが。
「アノマーノちゃん、お帰りなさーい。オレちゃんはちゃーんとみんなを生き残らせたまま組織も残しておいたぜ。つーか頭数はむしろ増えちまった」
「ふぅ、若の行動力にはいつも頭を思い悩ませられるな」
エンターテイナーのように礼をしながら手を下げるバードリー。
その隣には、似合わぬ紳士服のヴァーノもいる。現在は御歳132歳と、身体を覆う体毛が白く染っており老いを感じさせられる。
おそらくこの帰還に合わせたサプライズも彼らが準備していたのであろうと2人は理解した。
「おっと、今後の軍資金のためにも宴会は用意してないよ」
「ぐぬぬ。少し期待していたのだ」
***
そうして、少し時間を置き、大人数での会合が可能な部屋として皆が食堂へと集合した。
そこでは一同立ち上がったまま寡黙し続け、アノマーノの言葉を耳に通す。
「これより、〈魔王城〉打ち入り計画を遂行するのだ!」
強く出たその一言に、誰もが否定の意を返さない。
何せ彼女はあの〈返り血の魔女〉セレデリナを倒している。これ以上の武力的威厳はこの世に存在にしないのだから。
力という信頼。それを以って彼女の話を堂に入って耳を傾ける。
「具体的な話なのだが、余が〈魔王城〉へと出向き、そこで交渉を済ませた後、〈魔王〉ブリューナク・マデウスに決闘を挑むことのみを作戦とするのだ。最後には余は父上から『まいった』と声音を吐かせ、有利に交渉出来る立場にしたうえでロンギヌス・マデウスとバードリーに〈ノワールハンド領〉を懸けた戦いを行わせる。以上である」
おぉ、何とも芯の通った真っ直ぐな声だッ!
彼女の弁舌には一切の
他の団員たちは皆既に、立って演説しているはずのアノマーノが〈魔王〉の首を取った武人であるかのように幻視しているッ!
〈魔王〉を倒す。それは確約された未来だッ!
「故に、今回のメンバーは何があってもいいようにセレデリナは当然として、後はバードリーと連れた3人だけの少数精鋭とする。何なら決闘が終わってすぐに領地奪還の御前試合をする段取りであるからな」
「あー、そのことなんだけど、少し補足させてほしいんだ」
続いて組織を支えてきた2人を率いることを提示したのだが、そのタイミングでバードリーが口を挟む。
どうにも彼らにとって真剣な話があるようだ。
「オレちゃんたち 2人で、ロンギヌスとは戦いたい。ヴァーノちゃんだって昔は家族みたいなものだったんだ、一緒に復讐したい気持ちが強くなっちゃったのよ」
「なんか反則な気もするが許してくれねぇか?」
彼らの言葉にアノマーノは眉をひそめるが、同時に2人の瞳を見つめる。
揃って自信がないからなどという己への驕りではなく、本当に2人で自らの目的を果たしたいと願っている。だからそのためにこの100年を過ごしてきた。
それを一瞬にして理解する。
「……なるほど。そうだな、この100年、組織運営しかやってこなかったなどという生ぬるい男ではないのだろう? お主ら2人は。では、ヴァーノの同行を許可しよう」
なので、返すのはこの問いかけだ。
「「……」」
少し黙り込む2人。
それは怠慢の証明なのか、あるいは――
「あたりまえじゃん!
「ま、申し出たのは俺ら自身だがな。おかげで2人で戦うって考えが改まって話だ」
息を溜め込み、吐き出すように自信満々な笑みで答える。
これにはアノマーノも強く安心感を覚え、
「うむ、それなら大丈夫そうなのだ」
と、それまでの疑念が晴れたような笑顔を見せた。
合わせて〈バードリー義賊団〉の面々はこれまで自分たちを支えてきた団長と副団長に賛美の拍手を送る。
「団長はすげぇ強くなったんだぞーっ!」
「副団長もやべぇ! マジバケモノ!」
「2人とも超ワイルドよー!」
「ちなみに俺らも姐さんにしごかれたー! もう二度とあんな修行したくねぇー!」
「そういうわけだから、団長と副団長をよろしくー!」
改めて送られる拍手喝采。
程よく雰囲気も温まってきた。
だが――
「あー、とりあえずメンツは確定したのね。正直そこの雑魚2人が本当にブリューナクの息子を倒せるのかは不安だけど」
そんな空気を遮るようにセレデリナが剣幕を切ってきた。
これには他の誰もが「お前のみたいな最上位ランクの人間から見れば誰でも雑魚になるだろう」とツッコミたい気持ちを押し込めていたが、そこで2人は軽くこう返した。
「おっと、俺らは2人で最強になったんだ。1人じゃダメかもだが、ヴァーノと組めば〈返り血の魔女〉サマだって倒しちまうかもだぜ?」
「ああ。それについては俺も同感だ」
ハッタリのようにも聞こえるが、セレデリナ自身試すように煽っていたのが本心であり、ここまで言えるなら合格だと判断した。
「……なら、問題ないんじゃないの」
返す答えもこれが全てだ。これには他の配下たちは「ツンデレ乙」と言葉を胸中に収めてしまった。
「そうそう、アタシは自分の居場所がほしいから、今回は精一杯暴れるつもりよ。暴力沙汰ならいくらでも頼ってよね」
また、セレデリナも自身の意気込みを説いた。もしもの時に力を貸すという優しいニュアンスではない、明らかに今回は暴力で全てを解決する案件であるかような発言であった。
それにはアノマーノも少し引き、ひとつ注意をする。
「あくまで父上との一騎打ち以外は予定外のことにしたい。わざと他人に喧嘩を売るような真似だけはしないでほしいぞ」
「チッ」
返ってきたのは舌打ち。2つ名の1つである〈暴力の女神〉の意味を噛み締めてしまう。
「コホン。では、早速身支度を済ませ〈マデウス国〉へと向かおうぞ!」
「「「応ッ!」」」
そんなこんなで、〈ノワールハンド領〉奪還のための第一歩が始まった。
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