マレーシア編②カジノに到着! 今、財布デスゲームが幕を開ける

ゲンティンハイランド。別名・マレーシアのラスベガス。高原にあるリゾート地で、年中非常に涼しく、多くの観光客が訪れる場所だ。豪華なホテルに遊園地、カジノ、ショッピングモール、ゴルフコースなどが完備された大規模アミューズメントパーク。夢がある! 夢しかない! そんな場所に、僕らはついに到着した。


カジノにカチコミをかける前に今日のホテルにチェックインし、荷物を置いてくる。


そして、とりあえず両替をしに行った。マレーシアの通貨はリンギット。2022年8月24日現在のレートは、1リンギット30.56円だ。当時のレートは覚えていないため、ここでは現在のレートに置き換えて話を進める。


だが、ここでひとつミスをしてしまった。ゲンティンハイランド施設内の両替所は、レートがあまり良くなかった。これなら、クアラルンプールの市街地で両替しておけば……。とは言っても今更引き返せるわけもなく、渋々微妙なレートで両替をする。


ここで、今回のギャンブル企画のルールを説明しよう。


前回は競艇ということでチーム戦を行ったが、今回はカジノ。メンバー全員の金を共有財産とするのは無理があるため、個人戦ということになった。27時までに最も高い金額を持っていた人の勝ち。勝者には、特別ボーナスが与えられる。


カジノ到着時点の時刻は23時。残り8時間だ。


個人戦ということもあり、スタート金額は全員10万円分(現在の価値で3291.57リンギット)。ポケットマネーではなく、取材費名目で支給された。なお、損失が出た場合は損失分を自腹で補填するということになっている。返済期限は別になく、無理なく支払って良いとのことだった。


「取材費にそこまでの金はかけられない」との、M社長の言葉だ。


これは意地でも勝たなければ。勝たなければ、借金が増える!(当時、借金100万円)


簡単なルール説明を終えた僕らは、散り散りになった。勝負開始だ。


僕はまず、全員が何に賭けようとしているのか偵察した。斎藤ちゃんはルーレット。日本人に特に人気のあるゲームだ。ルールが簡単だからね。


M社長はブラックジャック。これも、日本人に特に人気があるゲームだ。ビデオゲームのミニゲームでもお馴染みで、ルールが簡単だからだろう。実際はベット額を倍増するなど複雑な面もあるが。


田中さんはバカラ。カジノの王様と呼ばれる大人気ゲームだ。プレイヤーとバンカーのどちらが勝つかを当てるシンプルなゲーム。バンカーに賭けて勝利した場合は、手数料が取られてしまう。2倍配当なのだが、手数料のため1.5倍配当などになってしまうのがネックだ。そのため、「黙ってプレイヤー」というのが通説となっている。


さて、僕はどうしようか。まだまだ時間はある。焦ることはない。冷静に、どのテーブルに着くべきか見極めよう。


ホール内を練り歩き、ひとつ気になるゲームを見つけた。シックボーだ。


シックボーは、ディーラーが3つのサイコロを振り、参加者が出目を当てるゲーム。大小を当てるのが2倍配当、2つの数字を予想するダブルが6倍配当と、配当倍率が賭け方によって大きく変わる。基本的には、競馬に似た賭け方が多い。


僕はじっとシックボーのテーブルを眺める。このようなギャンブルには、ディーラーによって癖というものがあると考えたためだ。僕は大小のみに注目し、出目の偏りを観察した。


大、大、小、小、小、小、小、ゾロ目。

小、大、小、大、小、小、小、小、小、小、ゾロ目。


明らかに小に偏っている。


ただ、何かおかしい。小がある程度連続した後、ゾロ目が出ている。3つ全てゾロ目になると、ゾロ目に賭けて当てていない限りは没収されてしまうのだ。つまり、ある程度勝たせて気前よくチップを出してきた頃合いでゾロ目を出し、意図的に没収している可能性が高い。


問題なのは、機械的な操作ではなく、おそらくは長年の経験と感覚による操作だということだ。百発百中ではない限り、賭け金を釣り上げ過ぎると痛い目を見てしまうかもしれない。


とりあえず、僕は小に20MYRのストレートベットをすることにした。常に小に20MYRだけ。勝っても負けても賭け金を変えないため、リスクが少ない。それゆえ、連敗すると回収しにくくなるのだが。


1回目:大(資金3261MYR)

2回目:小(資金3291MYR)

3回目:小(資金3321MYR)

4回目:大(資金3291MYR)

5回目:小(資金3321MYR)

6回目:小(資金3351MYR)

7回目:小(資金3381MYR)


来た。連続して小だ。どうするか。3回連続ではまだまだゾロ目は出さないはずだ。何がストレートベットだ!男なら勝負やろがい!


と思いつつ、出したのは50MYR。自分が恥ずかしくなるほどのチキンだった。


8回目:小(資金3431MYR)


よし、100MYRにしてみよう!


9回目:小(資金3531MYR)


難しいのはここからだ。他の人の賭け金も見ていたが、僕が100MYRを賭けたとき、まわりもかなり高めの金額をベットしていた。一人はオールインしていたほどだ。そろそろ、ゾロ目を出すだろう。


僕は今回、見送ることにした。ここでゾロ目に賭けたらどうなるかを一瞬考えたが、ダメージが少ない方を取りたがるに違いない。他の国にも大小を当てるゲームがあり、サイコロを見えないように振った後でベットを行うケースもあるらしい。


だが、シックボーはベットした後にサイコロを振る。ゾロ目(トリプル)の配当は181倍。数字は問わずどのゾロ目でも成立するエニートリプルは、31倍だ。


100MYRベットすれば、3100MYRがかえってくることになる。これはリスクが高い。ディーラーは大を出そうとするだろう。


他の人を見ると、小に大金を賭ける人が多かったが、どう計算してもエニートリプルよりはリスクが少なそうだった。


結果は、3のトリプル。


良かった。エニートリプルに賭けていたらどうなっていたか…。


違う。そうじゃないだろ。内なる誰かが語りかけてくる。勝負するんじゃなかったのか。心の奥底から何かが沸き立つ感覚がする。そうだ、勝負をしにきたのだ。ここで引いては男ではない!


僕は、次ゾロ目が来そうなときにエニートリプルに30MYR賭けてみることにした。大金を賭ける人がいれば、エニートリプルのほうがリスクが少なそうな金額だ。


小に30MYRずつ賭け続けていると、5連続で小になり、資金は3471MYRになっていた。開始から1時間も経たず、既に200MYR稼いでいる。ここが勝負の分かれ目。仮に失ってもまだ勝ち分が大きい。ここで勝負すべきだろう。


僕は、そっとエニートリプルに30MYRを置いた。追従する人が一人だけいたが、その人も30MYR。小に大金を賭ける人もおり、中には配当倍率60倍の1と2のダブルに賭ける人までいる。まだトリプルを出したほうがカジノにとってリスクが低い状況だと言える。


サイコロが回るのをじっと見つめていると、時が止まったような気さえした。トリプル出てくれ。何度も念じ、サイコロが止まる。


2,2,2のトリプル!


30MYRの31倍、930MYRを獲得した。賭けた金額が30MYRだから、利益は900MYRだ。


思わずガッツポーズをしてしまう。浮足立ち、まだまだこのテーブルにいたくなったが、流石にもうディーラーにも悟られている頃だろう。僕はホクホクとした気持ちでテーブルから離れ、みんなを煽りに行くことにした。


総資金、4371MYR(現在の価値・約13万3600円)。


勝負はまだまだ、終わらない。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る