マレーシア編①マレーシアよ、また会ったな。

例のごとく、友人・M社長の会社と僕との合同企画・ディープスポット探訪により、マレーシアへと向かうことになった。実は、マレーシアには一度行ったことがある。高校の修学旅行だ。


普通の県立高校なのだが、姉妹校訪問のため何年かに一度は修学旅行でマレーシアを訪れることになっている。先輩らは北海道だと言っていたので、全員が北海道ムードのなか、「今年はマレーシアです!喜べ!」と先生から伝えられたとき、教室が微妙な空気感に包まれたのをよく覚えている。


「海外は嬉しいんだけど……マレーシアって何?」

「イメージわかないよね」


そんな感じだ。当時の僕の中のマレーシアのイメージと言えば、「ジャングル」「カジノ」だった。偏りすぎている。マレーシアでカジノがあるのは、ゲンティンハイランドのみだ。もちろん、修学旅行では行かなかった。クアラルンプールのいいホテルに泊まり、親友と二人部屋で和気あいあいとしつつ、当時交際していた彼女に出発前の喧嘩のわびの電話を入れたりしていた。ホテルの部屋で電話越しに土下座をしたのは、人生であれっきり。


という高校のマレーシア旅行の話は、番外編にでもしておこう。


今回、マレーシアに赴いた目的は、カジノだ。あのときは旅の行程に含まれていなかったゲンティンハイランドに行き、カジノで一山築こうというM社長の魂胆である。そのため、今回はフィリピンより参加人数が増えた。


斎藤ちゃん、カメラマン田中さん、M社長、ガイドさん、僕だ。


このイカれたメンバーを案内することになったガイドさんは、不憫だと思う。


日本の某空港からシンガポールに行き、シンガポールでマレーシア行きの飛行機に乗り換えるルートだ。高校時代も、シンガポール経由だった。シンガポール航空の機内食は美味しいと評判であり、実際、機内食と言われて一般的に想像するものとくらべて1.2倍は豪華なご飯が出る。


マレーシアに降り立ったときは夜だったため、クアラルンプールで一泊。日本語ができる現地ガイドさんと合流して適当なホテルに泊まり、全員でカジノゲームの予習をした。トランプを使い、バカラのスクイーズの練習をするのがメインだった。


要らなくない?と思ったが、現地で恥をかかないためには要るのだとM社長は語る。こう言っているが、M社長もカジノは今回の旅がはじめてらしい。


「私はフィリピンのとき、こっそり行っとったけどね」

「え、ずるい。なんで僕に声かけてくれんかったん」

「君は右目ば腫らしてホテルで半泣きしとったでしょうが」


そんな会話をしながらカードさばきを磨いているともう遅くなってしまったので、寝ることに。女性一人だから部屋割りはどうなるのかと思っていたが、なぜか斎藤ちゃんと僕が同部屋だった。M社長は田中さんと同部屋、ガイドさんは一人部屋。


M社長いわく「いつも寝泊まりしとるけん、慣れとる思うて」ということらしい。


僕らは何もすることなく眠り、あまりオリエンタルな香りのしない朝食をとり、クアラルンプール観光をそれとなくした後、昼食に向かった。昼食は、なぜか中華だった。


そのとき、僕に悪寒が走る。蘇る、在りし日の記憶。どこからともなく聞こえてくる「おかえり」という幻聴。全て量が多すぎる中華料理の山々を平らげ、砂糖のような甘みのあるお茶をがぶ飲みする面々。


「デザートかあ、中華だし杏仁とかかなあ」

「コースって何が出るかわからんワクワクがあるけんよかよね」

「スーッ……」


僕は、これとほとんど同じ会話を以前したことがあった。高校時代、まさにマレーシアの中華料理店で。この後出てくるのは、一見スイカのようで赤みがかった黄色い色をしたスイカとは似て非なる果物。


「え、なにこれ」

「くそ、また会ったな……パパイヤ」


僕は諦めたように手を伸ばし、一気に果物を口の中に運ぶ。そうそう、これこれ! 口の中いっぱいに広がる、溶連菌のときに飲まされたシロップ薬(いちご味)のような味!妙にみずみずしく、余計に薬っぽさが強調される感じ!懐かしいなあ……。


「ただいま、マレーシア!」

「え、何そんなにうまいの?」

「いただきま……うぼ」

「ま……まずい」


あまりに衝撃的な味に次々と脱落していく中、僕は高校時代への回帰願望だけで完食した。全てのパパイヤがこうなのかはわからない。僕が食べた店が偶然そうだっただけかもしれない。


ただ、高校時代、あの店にいた同級生全員が嘆き、咳き込み、そっと食べかけの果実を置いたあの現象は幻ではなかった。下見をしたはずの先生すら、難しい顔をした後そっと残していたあの日は、確かにここに存在した。別にディープスポットではないが、心のディープなところに直撃してしまい、僕はなぜか泣きそうになる。


虫も蛇も別になんとも思わなかった僕がこの世で唯一嫌いな食べ物、パパイヤ。


元気だったか。それはよかった。


また、日本人観光客に一生忘れられない衝撃的な味という思い出を植え付けてくれて、ありがとう。そして、さようなら。願わくば、もう二度と会いませんように。


全員グロッキーだけど、カジノに着く頃には嘘のように元気になってると思うから、パパイヤ君、どうか気に病まないでほしい。だけど、一生会わないでほしい。まじで。一生のお願いだから。後生だから……。







全パパイヤ愛好家の皆さん、大変申し訳ありませんでした。

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