続続・番外編①100万円を1晩で使い切りたい男と女たち
前回のあらすじ。
新規で立ち上げたギャンブル企画のお試しで、ボートレースを楽しむ男と女たち。負け続けて変なテンションになった彼ら彼女らは、無謀なオール・インを繰り返す。二度目のオール・インで約100万円の勝利金を手にした我々は、1晩で使い切るべく中洲へと向かうのだった。
僕らは、取材の打ち上げでよく使う店へとたどり着いた。馴染みの店員が僕らを見るなり「なんかいいことあったんすか?」と聞いてくる。懐の豊かさが、顔に出ているのだろう。思わず口元に手を当てながら、「今日はたんまりあるけん金落とそう思って」とのM社長の言葉に耳を傾ける。
そう、僕らはただ飲みに来たのではない。ここで何円使えるかが、勝負になる。お腹いっぱいになったり、飲みすぎてフラフラになったりしてもいけない。夜は、まだまだ長いのだ。果たして、僕らに夜明けは来るのだろうか。
しかし、僕は勘違いしていた。
彼らは、飲みに来ただけだった。ビール、焼酎、日本酒、日本酒、ビール、日本酒。一人何杯飲んだだろう。明確には覚えていないが、ビールのピッチャーが2つ並んでいたことは覚えている。いかに酒豪揃いと言えど、4人でピッチャー2つと日本酒や焼酎のバカ飲みは堪えるはずだ。
僕は密かにペースを落とそうとしたが、主に斎藤ちゃんの勢いに押されるがまま飲まされてしまった。このメンバーで最も酒を飲ませていけない女が、最も酒を飲んでいたからだ。彼女はこれまで何度も飲み歩き、潰れては僕に介抱させた。
ホテル代わりに泊まらせてもらうことも多い彼女の家で飲んだときは、なまじ家の中ということもあって収集が付かなくなることもある。
かく言う僕も酒には目がなく、まわりが飲む人ばかりだとペースが早くなる。この頃はまだ二十代前半で勢いもあり、「全然飲んで無いから!(当社比)」と言っては「飲んどるやないかい」とツッコまれていた。
全員が店に高めの焼酎のボトルをキープし、飲み、食らい、店員にも奢り、隣の席の女子会中と思しきグループにも奢り……。
なんだかんだと、順調に金は消費されていった。明確には覚えていないが、領収書をチラ見したとき、15万だかと書かれていた気がする。普通の居酒屋で、よくここまで使ったものだ。
いっそのこと、「今から俺らが帰るまで全員分奢りまーす!」とか言っちゃってもよかったのではないだろうか。普通、居酒屋は一人3000円から5000円あれば足りる。奢りということで気を大きくしても、一人1万円ということはないだろう。キャパ30人程度の小さい居酒屋なのだから、これくらい豪勢に行きたいものだった。
居酒屋を出ると時間も過ぎていて、全員酒が回りに回り、斎藤ちゃんに至ってはカラーコーンを頭から被り始めていた。両手にも持って「三角様!」とか一発ギャグをしている。ゲーム好きじゃないと伝わらないネタだが、全員ゲーム好きなので大受けだった。
カラーコーンをそのまま持ち去ろうとする斎藤ちゃんを止めつつ、次の行き先を女の子のいる店に定める。今回は女性もいるが、男女グループであれば女性も入れる店を知っていた。
中洲のキャバクラは、ちょっとしたものだ。
女の子の質が高いのはもちろん、ボーイの質まで高い。よく教育が行き届いた店が多く、適当なキャッチに捕まったり案内所に入ったりしても地雷にあたることはなかなかない。彼らはキャバクラを飲み、セクキャバを揉みと言うが、飲みでも揉みでも総じて質が高いから、中洲は男たち人気があるのだろう。
男女混合グループでキャバクラというのはあまり経験が無かったが、案外気まずくはなかった。キャバクラは本来、隣に座った女の子とただ会話と酒を楽しむだけの空間だ。そもそも、気まずくなりようもない。
何より、一番楽しんでいたのは例によって斎藤ちゃんだった。彼女は恋愛対象としては男性に絞っているが、それはそれとして可愛い女の子が好きなのだという。可愛い女の子に囲まれ上機嫌になり、世の中のおじさんも裸足で逃げ出すほどのうざ絡みをし、女の子たちに露骨に避けられていた。
内一人が僕の隣に来て、「落ち着く」と言ったのは少し心外だったが、言われ慣れているのでムッとするのも損だと思い、酒を飲む。この子を仮にIちゃんとするが、この子がまた酒豪だった。酒豪に好かれる電波でも発しているのだろうか。
注文したボトルをガンガン空け、ガンガン注文を促す。すごくやり手だ。自分でたくさん飲んで、客の「飲ませたい」という欲求を満たしつつボトルを早急に空にする。ある意味、最強のキャバ嬢かもしれない。実際、僕がこれまで出会ったキャバ嬢の中では接客・ルックス・酒の強さ・強かさが全て最強だった。
その最強のキャバ嬢の力添えによって、100万円はまたたく間に消えていく。テーブルの上に置かれたボトルへと姿を変えて、万札が次々に羽ばたく。M社長は気前よく、嬢に酒を奢り続けた。斎藤ちゃんはポケットマネーでチップまで出していた。
そして、夜が明ける頃には、100万円はすっかり無くなり、M社長と斎藤ちゃんはポケットマネーをも消費し、要らぬ出費をこさえてしまったのであった。
早朝の中洲を歩いて斎藤ちゃんの家までフラフラと向かい、ベッドにたどり着いた頃にはふたりともダウン。ふと目が覚めてほぼ同時にトイレに駆け込もうとしたとき、もう酒は辞めようと思った。
番外編①、終わり。
思い返しながら書いていて、ふと思う。番外編長すぎ。
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