第21話.官品支給

私達入学生には官給品として、制服制帽、半長靴(はんちょうか)などが貸与された。

新品の、立派なそれらの備品であるが、一つだけ問題があった。


「岩木(いわき)教諭。半長靴の寸法(サイズ)が合わないのですが」

「なんだと」


一回り大きな半長靴を与えられていたので教諭に報告した。

ズカズカと靴音大きく近づいてくる岩木教諭。彼は銃剣を模した木銃を常に持っているので、私達生徒からは裏で「銃剣親父(じゅうけんおやじ)」と呼ばれている師範である。

ごつくて四角い顔を、ずいと私に近付けて言った。


「今、官品に不平を言ったのは貴様か!」

「不平ではありません、寸法(サイズ)の問題です」


そう言うと、岩木教諭が叫んだ。


「寸法ぉ?官品を身体(からだ)に合わせようとするな!身体(からだ)の方を官品に合わせんかッ!」


唾(つば)を飛ばしながら、大声でまくし立てる。古傷で切れている眉毛を釣り上げて、凄い剣幕だ。


「工夫して使え。以上!」


教諭は言いたい事を言った後、すぐに立ち去った。


「……了解しました」


工夫して使え、か。

吾妻が隣に来て、岩木教諭に聞こえないよう小声で呟く。


「おいおい銃剣親父、無茶苦茶だな」

「工夫するさ」


そう言って肩をすくめた。教諭の言う事はおおよそ予想はできたが、全く予想通りの言い様だ。半長靴には藁でも詰めるかな。


岩木教諭は一事が万事こんな感じであるから、学生には評判が良くない。と言うより厳しい体罰もあり、恐れられていた。

教育機関であるから、そういう役割の者が要るのは理解できる。しかし、あまりに旧態依然(きゅうたいいぜん)としている姿が、あまりにステレオタイプで一種の面白さを感じてしまう。


「工夫せんかっ!」

「くはっははは!」


眉間に皺を寄せて口真似をすると、吾妻が笑った。


「おいっ!貴様ら何をやっているか!!」


遠くから岩木教諭の怒声が聞こえる。「工夫して寸法を合わせておるところです!」と応えてやった。


さて、この北部方面総合学校だが。

平成の学校のように教育課程(カリキュラム)がしっかり決まっているわけでは無いようで、いい加減な所が多い。

試験の結果が大幅に遅れた事もそうだが、いろんな意味でおおらかだ。それはここが私達が一期生となる新しい学校、というのも大きい原因であろうが。


そう学生が手探りであるように、教員もまた手探りなのだ。更に言うと政府自体が未だに手探りなのであろう。政治、軍備、教育、全てが、急激に新しい体制に変革しようとしているのだ。


さて、この学校での受講科目は数学、物理化学、そして外国語。更に万国史(ばんこくし)と運動がある。運動は体力作りと、兵式体操。そして銃剣術という事だ。


全く、今から楽しみである。

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