やった
必死に手を洗う。やりすぎたか。大体臭いは落ちた気がする。手袋すれば大丈夫だろ。
家の近くのスーパーで、激安の焼きそばパンを買う。ここの美味しいんだよな〜、店内で作ってあるだけこだわってる味でさ。
いつもの癖で、並んでる前から2番目のやつを取る。ほら、あんまりみんなの手に触れられてるものじゃないのがいいじゃない? まぁこれただのこだわりだけど。
レジにていつもの店員さんに笑顔で接客される。買うのは焼きそばパンだけだけど、いいでしょ。美味しいんだし。
袋は要らないです、と断ってから、普通の焼きそばパンよりは大きめのそれを手に取る。今どきのセルフレジとは違い、ここは店員さんにお金を払う昔ながらのシステムだ。
100円きっちり。ワンコイン。それもなんかいいよね。
スマホを取り出して、あっそうだと思い出す。
「もう彼女いねぇんだったわ。さっきやったのに忘れてた」
俺の彼女は金崎渚。可愛くて、料理作ってくれて。これがまた美味いんだよな、この焼きそばパンに負けず劣らず。
街灯のない、真っ暗な帰路を辿りながら、バーコードのシールが貼り付けてあるだけの袋を破り、焼きそばパンにかぶりつく。鼻を抜ける、紅生姜のすっきりとした香り。ちょっと濃い味付けの焼きそばはもっちりとした噛みごたえ。パンは少し甘め。それが混ざり合って、いいハーモニーを奏でている。
ふと角に立っているカーブミラーを見た。見覚えのある顔が近づいてくる。あっ、さっきの店員さんだ。
気にせず焼きそばパンを頬張っていると、ガリッと音を立てて何かを噛んだ。なんだろう。見てみると、それは黒いなにかだった。機械のようだが、そんなに詳しくない俺にはわからない。
「店員さん、これ──」
ふと振り返り後ろを見ると、そこには恐怖を抱くほどの笑顔が目の前にあった。それを視界に収めたのも束の間、自身の頭に衝撃が走った。思わず膝を付き、パンを落とし、倒れる。
意識を失う直前、俺の視界に映ったのは、金崎という名前入りの、コンビニの店員さんがよく付けてるアレだった。
「みぃつけたぁ、なーちゃんの仇とるからね」
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