10

それからというもの、出勤して部署の前を通るとき、緊張するようになってしまった。

僕にはななちゃんがいるじゃないか。と自分に言い聞かせてみたものの、あまり効果がなかった。

咲丘さんのことは、ななちゃんよりもよく知らないのに、なぜこんな気持ちになるのか。

僕はちょっと異常なのだろうか。

席についてあれこれ考えていたら、北条に肩を叩かれた。

今度同期の飲み会があるということだった。

僕は心臓の高鳴るのを感じた。

咲丘さんは出席するだろうか。

なんとか話をする機会を作りたい。

そうも思った。

チャンスなのかもしれない。


「誰が企画したんだろう。」

「営業の林あたりだろう。」

「そうかあ。みんな出るのかなあ。」

「どうだろう。最初だから、みんな出てくるかもね。」


その日は、同期会で咲丘さんと何を話すか、なんの話をしたら興味を持ってくれるのか、そんなことを考えて、なかなか仕事が手につかなかった。

あの信号で咲丘さんの人違いを見てから、なんか急激に気持ちが変化した。

ずっと自分の中で咲丘さんのことを思っていたのかもしれない。

電車の時以来そうだったのかもしれない。

一方でななちゃんのことを考えて、他方潜在意識では、咲丘さんのことを思っていたのか。

ちょっと自分が気恥ずかしくなってきた。

なんかそんなことばかり考えていて、こんなんでいいのだろうかと思えた。


今、部屋で限定のウィスキーを飲んでいる。

静かで、物が少ないこの部屋で、僕の頭の中を満たしている二人。

まだ会話もしたことがない女性と2回の握手とその時挨拶程度の会話をした女性。

リアルとアイドル。

同期会もチェキ会も楽しみで待ち遠しくなってきた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る