9
チェキ会がだんだん近づいてきた頃、隣駅のショッピングモールで服を物色した。
今度こそ、新調した服でななちゃんに会おうとそう思って出かけたのはいいものの、
自分に似合う服などない気がしてきた。
量販店だから、店員にコーディネイトを頼むことも気まずい。
やっぱりいいかと思って店を出ようとしたら、館山さんにばったり遭遇した。
そうか、この駅に引っ越してきたんだ。
「よう。めずらしいな、服を見てたのか。」
「まあ、一応、ななちゃんにもうすぐ会うんで。」
「ははは、でも何も買っていないな。」
「はい。」ちょっと気恥ずかしくなって、顔を伏せた。
館山さんは、この間とは打って変わって陽気で元気そうだった。
「俺が見つけてやるよ。」
そういって僕の腕をひっぱって、また店の中に連れ戻された。
館山さんは服のセンスはあるほうだと思う。
いつもちょっとかっこいいなって服を着てる。
ちゃちゃっと服を見て、あっという間にシャツとジャケットを選んでる。
これは似合うぞといって、レジに向かう。
え!?買うとか言ってないんだけど。
これは俺からのプレゼントだといってお金まで出してくれた。
何のプレゼントなんですかって聞いたら、引っ越し祝いだという。
たぶん、それは逆だと思うけど、まあいっか。
なんか自分に合ってそうな気もしてきた。
ありがとうございますって言ったら、気にすんなとあっけらかんに言って高笑いしてる。
なんでこんな気さくな人が知り合いになれたんだろうといつも不思議に思う。
自分とは真逆の性格だ。
大学の何目的だからわからないサークルに強引に勧誘されてなんのサークルかよくわかってもいないのに部員になっていた。
でもそこで館山先輩と仲良くなれたのはほんとうによかったと思っている。
面倒見が良くて、さっぱりとした性格で、僕のようなはっきりしない性格の人間にも嫌な気も起こさずまっとうに接してくれる。
僕は館山さんに何も出来ないのに。
今日も帰り道、チェキ会の話を聞いてもらった。
アイドルなんかこれっぽっちも興味なくても真剣に聞いてくれる。
それがいつも嬉しいから、余計にしゃべってしまう。
ひとしきりしゃべったあと、信号待ちしている時、向こう側に咲丘さんらしきを見つけた。
実際には違っていたが、どこかで咲丘さんを探しているんだと気づいたとき、何かがきゅっと胸を締め付けた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます