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その日の夜、館山さんにもらったグラスにとっておきの醸造所限定のウィスキーをほんの少し入れて飲んだ。

このウィスキーは数か月前に北海道に旅行に行った際に買って帰った。

会社の同僚と行ったのだった。まだあまり親しくないがウィスキーが欲しくて出かけた。

会社にはそもそもまだ親しい人がいない。だからドルヲタのことも誰にも話していない。

酒好きのことは何人か知っている。だから誘われた。

同僚は、北城という苗字で譲治という名前だった。なんか昔の映画俳優みたいな名前だったから最初に会った時から印象に残った。

名前の印象とは違って本人はとても繊細できゃしゃだった。

最初の飲み会で僕が酒好きとわかり話しかけてきた。

でも僕は緊張してそっけない態度だったと思う。

それでもそれから会社で会えば話をするようになったし、たいがいは酒の話になるがまあそんな状態で北海道に行く話が出て了解したのだった。

まだそんな仲でもないから、最初は躊躇したけど、その醸造所には前から行きたかった。

北城が見つけてきたプランがとても安く、その値段で行けるのかと驚いた。そして同意したのだった。


「このパックはお得だね。」

なんでも旅行するときは、ネットでいろいろ調べてとにかく安く行く方法を見つけるのだという。

僕がお得とか言ったものだから、得意気にいろいろ話してくれた。

「何にも調べずに普通に切符買って旅行するなんて馬鹿げてるし。」

そうかもしれない。


1泊旅行とはいえ、一緒に旅行したにもかかわらず、北城とは酒の話以外をほとんど話した記憶がない。

それでもまた一緒に行くだろうと思った。

酒だけの関係というのも悪くない。

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