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山本さんの部屋は、ななちゃんのポスターとかサインとか生写真とかが壁一面いや四面を埋め尽くしていた。

すごいなあ。思わず見回してしまう。

「もう少ししたら弟が来ます。ちょっと渡すものがあって。あ、弟もヲタですよ。」

弟さんはすぐ来た。ドアを開けて入ってきたのは、もうひとりの山本さんだった。

「はははは」山本さんは驚いた僕の顔見て楽しそうに笑った。

初めての人には内緒にして驚かすのが楽しみらしい。

もう一人の山本さんも同じ笑顔で笑っている。


「僕、双子の人、初めてです。びっくりしました。」

「ジローです。ちなみに私はイチロー。親がいい加減でね。普通、こんな名前付ける?」

「適当なんだなあ。あの親たちは。」ジローさんは、声もそっくりだった。

「君は下はなんていうの?」

「えーと、じゃあ僕はサブローにしてください。」


この時から僕はサブローになった。


ジローさんは、違うグループのヲタだった。

今日はライブがあるからこれから出かけるんだけど、

3本目のペンライトを壊してしまってイチローさんのを借りることになったということだった。

昨日もライブがあって、床に落としたら根元から折れてしまった、違うグループだけどペンライトは大丈夫、青色が出ればいい、と言ってそそくさと出かけて行った。


「どっちが先にヲタになったんですか?」ジローさんが出て行ったあと、飲むでしょって言って缶ビールを出してくれて、プシュッとさせた。

「どっちだったかなあ。」ジローさんもプシュッとさせた。


ふたりともアイドルが好きで深夜のアイドル番組を一緒に見たり、最初はいっしょにイベントに行ったりしていた、だからどっちからだったかほぼ同時だったような気もするということだった。

「ただ、好きになるタイプはだいぶ違うんだよ。私はななちゃんみたいな優しい感じ。ジローは、元気がいいタイプ。」

「なんか面白いですね。見た目はそっくりだけど。」山本さんは笑って、

「はは、ジローの方が行動的でさ。イベントとかしょっちゅう出かけていくんだ。」

「じゃあこの間みたいに握手会に行くのってレアだったんですか。」

「そう。でもななちゃんのライブやコンサートは全部行ってる。握手会は敷居が高いというか、本人としゃべるっていうのが。めっちゃ緊張しいだから。」

ということは、夏にあった僕が初めて行ったコンサートで僕は山本さんとすれ違っていたかもしれない。

僕はこの夏からななちゃん推しになった新参者だ。

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