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今は帰り道にあったコンビニからちょっと離れた通りに座れるところがあって、そこに座っている。

コンビニで買ったレモンサワーを少しづつ飲んでいた。

握手のことをひとつひとつ反芻して気恥ずかしくなったり嬉しくなったりいろんな感情になって満足して余韻を楽しんでいる。


あたりはすでに暗くなっていた。9月で風が気持ちいい。

このままずっとここにいてもいい。

ときおり握手会帰りなのかほかの催し物の帰りなのかまばらに人が通った。


これで握手会というものがどんなものか少し理解することができたかもしれない。

手を握ったときのぬくもりがほんのり残っている気がする。

緊張で乾いた喉でしゃべった声は自分の声じゃないみたいだった。

ななちゃんの声がすっと蘇る。やわらかな声だった。


さて、そろそろ帰らなければ。まだレモンサワーは半分残っていた。

酒は好きなのに弱くてあまり飲めない。

ぐっと全部飲んでしまおうかとも思ったけど、少しだけ飲んで駅に向かった。

駅のホームについてもまだ飲んでいた。いい気分だった。


後ろから声をかけられた。

「どうでしたか。」

とても落ち着いた声だった。

声の持ち主は、あのおどおどした優しい顔をした人だった。

「ああ、すいません、突然すぎましたね。」

「いえ、なんというかちょっとびっくりしました。」

「ごめんなさい。さっきは緊張しててまともに会話もできないくらいだったので。」

優しい目がのぞきこむように僕を見ている。

「そうでしたか。そんな状態の時に話しかけてしまって。」

「いや、いいんです。こうやって話をするきっかけを作ってくれたんですから。」

おだやかな笑顔になった。

「あ、なんかお酒を飲みたい気分で。強くもないのに。」

僕は、駅のホームなんかで飲んでいる言い訳をした。

「いいじゃないですか。いい気分でしょ?」

「はい。とっても。」

ふたりで笑った。


名前は山本さんだった。

昔からななちゃんのことは知っていたけど、なかなか握手会に来る勇気が持てず今日意を決してきたんだという。

だからすごく緊張してほとんどしゃべれなかったらしい。

でも会えたことが嬉しくて嬉しくて僕を見つけてそのことを話したくてつい声をかけたのだという。


「しゃべれましたか?」

「いや僕も緊張してしまって」


駅のホームは、僕たち以外に数人しかいなかった。

向こう側にさっきまで居た握手会の会場が見える。

まだ光がついていた。

その光が一斉に消えた。

ななちゃんはもう帰路についたのだろうか。

ふたりともだまって光の消えた会場を見ていた。

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