第14話

 逃げ道が無いことに気が付いた私は覚悟を決めなくてはいけないのかと内心慌てていた。

 

「でも、推しは推しだし。」


 恋を提供してくれる人に恋をしてはならない。

 絶対的かつ普遍的な偶像を愛するために決めた自分ルールがまた邪魔をする。


「ねえ、あの窓際の席の人がしているのってタトゥー?」


「アレはタトゥーじゃないから安心して。

 後で教えるけど、ギルドの紋章を身体に付けたり、旗を撒いたりして所属をアピールするためのモノだからあまり見ないように。

 また、ギルドに興味があるって思われるから。」


「大丈夫大丈夫、私は此処にお嫁に行くから。」


「嫁ではなく妻なら歓迎しますよ。」


「りぴーとあふたーみー?」


「妻なら歓迎しますよ。」


「りぴーとあふたーみー?」


「嫁ではなく妻なら歓迎しますよ。」


「りぴーとあふたーみー?」


「そろそろいいんじゃありません。

 私の妻になってくれはしませんか。」


 ピーガガガガガ。

 機械が壊れるような音がした。

 顔が真っ赤で目がぐるぐると回り、耳から蒸気が出る漫画のような反応をひとしきりすると。

 絵に描いたように倒れそうになったので、倒れる前に抱え込んだ。


「これは夢?

 現実?

 私の全てを受けていれてくれる人が私だけを見つめてくれる気がする。」


 悪魔の姿が一瞬眼鏡をかけた茶髪の美少女のように見えた。

 一見根暗に見えなくも無いが、俺からすると十分美少女の括りに入る人が一瞬だけどそう見えた。


「ほわわわ。」


「海王か?」


「く、食うんだ。」


「宝石肉を?」


「その昔結婚指輪の代わりにしたとされる伝説の肉を!?」


 ボケにボケを返してはいるとは終わり(ツッコミ)が不在の中、終わりを決めるのはお客様だった。


 チンチン


「コーヒーのお代わりのようですね。」


「しょ、れまでに何とか返事を決めておきます。」


「私がアンズさんから聞いたプロポーズはまがい物だったんですかねえ。」


「あわわわわ。」


「やあ、スポ〇ジボブ、僕は今から仕事に行くからまた今度ね。」


「わかった、バイバイパト〇ック。」


 こういうノリを持っているのは相当なアニメを網羅しているオタクしか居ないから面白い。

 Vtuber兼オタクとか結構いるし、でもそういう人ほど中々出会いを求めないから見つからないケースもあるよね。

 他のお客さんにコーヒーのお代わりを淹れながら、あの子は新しく雇ったこれかと小指を建てられ、揶揄われていたが、そろそろ私も身を固めた方が良いかもしれませんねと返すとたいそう驚かれた。

 

「とうとう身を固める決意をしたか。

 でも、あの元許嫁だか婚約者の人が納得するか?」


「私は実家とはもう縁を切りました。

 これ以上の血の縛りを求めるならうっかり劇薬を落としてしまうかもしれませんねえ。」


「冗談に聞こえねえよ。」


「フフフ、どこまでが冗談なんでしょうかねえ。」


「後は死霊の宴(リッチカーニバル)の魔女様はをどうにかしねえと、後ろから刺されそうだけどな。」


「思いの年数とか言われてもですねえ。

 困ったものですねえ色恋は。」


「まあ、国を挙げて祝うようなことは無いように釘は差しておくよ。

 そうしておけば離婚するかもって手合いは増えるかもしれないが、慎ましやかなもんだろ。

 妾の押し売りされるよりかは。」


「ええ、結婚と言っても私と彼女、そして従業員だけのモノに成りそうですけどね。」

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