第13話

 顔を真っ赤にして戻ってきたので何事かと思ったが、案の定からかわれただけの様だ。

 頑なに話そうとはしないから、言及もするつもりは無い。


「私はそこまで誘われる人間ではないのだがねえ。

 文化の違いは嫌だねえ。」


 鈍感主人公では無いけど、それでも断ってるから質が悪い。


 チンチン

 

「ん?

 コーヒーのお代わりか。

 今度は私が持っていくとしますかね。」


 彼女に渡したコーヒーはタンポポコーヒーとブレンドした低カフェインコーヒーだ。

 常連になってからコーヒーのお代わりがとても多い人だったのでカフェインの過剰摂取を避けるために提案した商品。

 こちらの方が学習に響かないと感じると彼女のお気に入りになった。


「お待たせしました。

 本日の2杯目のコーヒーは薬草と深めの焙煎を程しましたバランスの良いブレンドを淹れております。

 1杯目のモノと比べるとやや苦みが強めですが、その分勉強に集中しやすいと思いますよ。」


「ええ、ありがと、う。

 そ、れで、考えてくれた?」


「お断りさせていただきます。

 私もここのマスターでありますのでね。」


「ざ、んねん。」


 ギルドの靴替えすることは多々ある。

 マスターが居なくなって潰れるギルドも星の数ほどある。

 長い時、君臨し続けたギルドは決まって巨大な組織になる。

 稀に地方密着型になり、小さな組織で収まり継続していることもある。


「で、も、あなた独り、よ、ね。」


「ええ、新しく雇った人もギルドメンバーではありませんので、勧誘はどうぞご自由に。」


「断られちゃっ、た、わ。」


「然様でしたか。

 彼女はまだ、こちらの土地に来たばかりですのであまり情勢について詳しくありません。

 もしかしたら気が変わるかもしれないのでまた勧誘してみるのもいいかもしれませんね。」


「多分、無、理。」


 確信を持った目つきをしていたので、おそらく彼女、アンズさんには此処に居たい理由がある。

 無条件に安心できる人のいない世界では私が一番縋りたい人になってしまっていないか。

 これだと必要な情報を私からしか与えられない。

 何がいけないか、彼女は悪魔の身体になっている。

 人よりも寿命が長い。

 私が死んだときに、彼女が何もできなくなってしまわないかという一種の懸念が頭を過ぎった。


「ふう、ここは年長者として一肌脱ぎますかね。」


 まだ時間はある。

 依存をさせないために生活から工夫していこう。

 彼女が外に興味を持つようにするための動き始めるのだが、このとき私が既にアンズさんを最初から依存させていたことに一切気付くことは無かった。


「マスター、誘惑されませんでした?」


「今回は勧誘だけだったから大丈夫だよ。

 そこまで神経質にならなくても。

 杏さんのほうこそ、最初は一般常識を教えてから外を見てもとは言ったけど、いつでも外に行っても良いからね。

 ここで、教えるよりもいいパターンもあるから、出て行ってくれと言っているわけでは無いよ。

 せっかくの新しい人生だし、他にやりたいことが出来ると思うからね。」


「オタ活もできない世界ですることなんて殺伐とした冒険者か、生産系でしょ。

 ここにそういうことやって疲れたっぽい人が居るのに私ができるはずは無いと思うんだけど。」


「あー。

 若いころの無謀は買ってでもしろっていうけど、今はそういうことないからね。

 ま、ここで馬鹿をやらかさない限りは雇ってるよ。」


「永久就職をご所望します。」


「それって結婚しろってこと?

 今は17歳だけど、生前は29歳のおじさんだよ。」


「関係ないですよ。

 私だって21だったし許容範囲の歳の差です。」


「トータルで46だけど。

 下手をするとお父さん世代だよ。」


 言い訳し始めてきている。

 あれ?

 でもこれ断る必要が無いのでは?


 自分の血筋の事を考えると若干の問題があるけど、恋愛結婚自体は許可されているから実質問題は無い。

 強いていうなら元婚約者の許嫁がなんか言ってきそう。

 そのくらいなら彼女が了承すればOKじゃん。

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