第2話 どういうこと?
「さっきの続きを、聞かせて」
「・・・・・え?」
続き・・・続きってなんだ?
「だから!!黒百合くんが私を気にかけてくれる理由!」
「あ、ああ・・・・・」
逃げるのに必死で忘れていた。撃たれる直前までそんな話をしていたんだった。
隣を見ると、竜胆さんはむっとしながらじっと俺の目を見つめていた。え、やっば。緊張してきた。
ここで逃げては男が廃る。できるだけ素直に、今の気持ちを伝えよう。
目をつむって深呼吸をし、それから彼女の方に体を向けた。
「覚えてないかもしれないけど・・・去年、竜胆さんに助けられたんだ。俺が掃除を押し付けられそうになった時、毅然と立ち向かって『あんたたち、恥ずかしくないの』って。めっちゃカッコよかった。このことがきっかけで、ちょっとずつ竜胆さんのことが・・・気になり始めたんだ。単純だよな、我ながら。けどまだ、この気持ちが『好き』の一言で片づけられるかどうかは分からない。恩返しがしたい、っていうのもあると思うんだ。多分、それが一番大きな理由・・・だと思う」
俺が言い終えると、彼女はゆっくりと視線を俺から外し、正面に向けた。
そして、口元に微かな笑みを浮かべた。
竜胆さんが笑ってるとこ、初めて見たな。
「最初に『知らない』って言ったけど、あれ嘘だから」
「え・・・・・?」
「黒百合くんのことは、以前から知ってる。それと、今話してくれたこともちゃんと覚えてるよ。記憶力はいいんだ、私」
「そ、そうなんだ・・・・・?」
え、え、ちょっと待って。覚えてる?俺のことも、去年のことも全部?
やっべえ、めっちゃ嬉しい・・・
「・・・てっきり、告白してくるのかと思っちゃった」
無邪気な子供のような笑顔でそんなことを言われたら、顔を赤くすることしかできやしない。
「そっかぁ。ま、黒百合くんの思いは確かに受け取りました。じゃあ、次は私の話をさせてもらおうかな。ずっと気になってるみたいだし」
鋭い。心の内を見透かされたようで、なんだかむずがゆかった。
真剣な顔になって、彼女は話し始めた。
「君が思ってる通り、私は誰かに狙われてるらしいの。いつからだっけ。もう、おぼえてないや・・・それと誰が狙ってるのかも分からない。姿を見せずさっきみたいに遠くから攻撃してくるから」
「やっぱり、そうなんだ・・・」
「ただ、物語とかだとこういう時、狙ってるのは不死身の肉体を調べようとする研究者とか国の機関だよね」
「え、あ、ああ・・・確かに」
物語においては、この世に存在しないはずの超能力者だったり不死者がそういった連中に狙われることは多い。
でもまさか、そんな研究者や国の機関が存在するとでも・・・?
「『まさか』って思ってるでしょ」
「う・・・・・」
「私もそんな連中の存在を信じてるわけじゃないよ。けど、他に誰が狙うのって話」
「・・・・・思いつかないな」
「でしょ。不死身の肉体を調べて利益になる人間なんて限られてる」
それはその通りだ。だが、連中が不死者を狙う理由がわからない。それと、なぜ今まで攻撃してくるだけで捕まえようとしなかったのか。
実験、なのだろうか・・・・・?
「それで、竜胆さんは今までどうしてきたの・・・?」
ただ逃げ続けてきたのか、立ち向かっていたのか、怯えていたのか。
「・・・警察に言ったことがあるけど信じてもらえなかった。当たり前だよね。正直なところ・・・ずっと怖かった」
作り笑いを浮かべながら彼女はそう言った。
「誰も助けてくれない、誰も信じてくれない。何で私は不死身なんだろう、こんな体じゃなきゃよかったのにって何度も思った」
「そう、なんだ・・・・・」
「想像してみてよ。家族とか恋人みたいな親しい人の死をずっと見続けなきゃいけないんだよ。自分だけ、時代に、世界に取り残されるんだよ。人間ってどうして不老不死なんて求めたがるんだろうね。気が知れないよ・・・」
悲痛な叫びに胸が張り裂けそうだった。彼女がどれだけ苦しかったのか、辛かったのか。想像することはできた。けれど俺は竜胆さんじゃないから本当の意味で彼女の気持ちを理解することなどできはしない。こういうとき、「気持ちは分かるよ」なんて安易に口にする人はどうかしてるんじゃないかと思う。
さっきまで辛そうな顔をしていたが、竜胆さんの表情に笑みが戻った。
「でもね、逃げてばかりじゃ何も始まらない。だから立ち向かおうって決めたの」
彼女の目には確かに決意が宿っていた。
「すごいなぁ・・・やっぱりカッコいいよ、竜胆さん」
「でしょ。もっと褒めて」
「え・・・」
「ほら!」
「カッコいいよ、竜胆さん」
「えへへ」
竜胆さんってこんなキャラしてたんだ・・・
可愛い過ぎる・・・
「まずは奴らの正体を突き止めようと足掻いてるの。けど、なかなかうまくいかない。だから、黒百合くんが良ければなんだけど・・・手伝ってくれる?」
「もちろんだよ」
「あと、私の過去を調べるのも」
「うん」
「さっきみたいな、命の危機が何度もあるかもしれないけど・・・・・」
「大丈夫。俺、逃げ足だけは速いから」
自信満々に言って見せると、竜胆さんはくすっと笑った。
「よし!今日は遅いから明日にしよう。帰ろ!」
彼女を一人で帰すのは不安だったので自転車で彼女の住むアパートまで送り、俺も家に帰った。
水平線の向こうには沈みゆく夕日が見えた。
明日から、大変な毎日が始まりそうだ。
そんなことを思った。
****
気が付いたら、真っ暗な空間に立っていた。すぐに、ああ夢なんだなと理解した。
「ねぇ・・・ねぇってば」
突然背後から声がして振り返ると、そこには全身を白いローブで包んだ長身の人が立っていた。
「・・・誰ですか」
見当はついていたが、一応だ。
「キミの想像している通りの人物だよ」
「あなたは、何者ですか」
「何者?何者・・・か。うーん・・・救世主、とでも言っておこうかな」
はぐらかされた。けれど、これ以上訊いたところで答えてくれそうにないのでそういうことにしておこう。
「何のために、俺の前に現れたんですか」
「キミに伝えておきたいことがあるんだ」
「俺に、伝えておきたいこと・・・?」
ちなみに声は男っぽかった。なので彼ということにしておく。彼は言った。
「彼女を救えるのは、キミだけさ」
「それって・・・・・どういう」
「すぐにわかるさ。キミもただの人間なんかじゃないんだから」
彼の姿が消え、同時に俺の意識も一瞬途切れた。
目が覚めた。最初に目に入ったのは自分の部屋の無機質な天井だった。
ただの人間なんかじゃない、か。
『な、なな、何なんだよ‼お前!!』
過去の記憶が一瞬頭をよぎった。彼の言うことも、間違いではないのかもしれない。
そんなことを思った。
****
いつものように自転車で登校し、2年4組の教室の扉を開けた瞬間、ある文章が目に入って来て、思わず足を止めた。
『黒百合コウスケは竜胆陽と付き合っている。オレはふたりがいっしょにいるところを目撃した』
黒板にでかでかと書かれていた。告発文かのようだった。
は・・・?一体、誰がこんなことを・・・・・?何の目的があって・・・?
俺が必死に思考を巡らしていると、背後で物音がした。
「ね、ねぇ。これは・・・一体、どういうこと?」
聞き覚えのある声がして振り返ると、そこにいたのは。
「どういうことかって聞いてんでしょッッ!!」
竜胆陽だった。
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