午後の日差しと微睡の中で
士田 蚕
金色の午後、鉛の部屋にて
どれほど長く眠っていただろう。
始発で貴方を送り出した後からの記憶がほとんど無い。
はっきりとしない意識の中、蝉の声が遠く聞こえる。
夏の日差しがカーテンの隙間を縫って暗い部屋に一筋の線を描く。
ふと、時計に目をやると時刻は午後15時。
数日前にできた首の傷はもう消えたようで、痕の一つも残っていない。
空腹すらも掻き消されそうな気だるさの中、布団の海に沈み込む。
自ら生み出した暗がりの中で、スマホのブルーライトだけが私の顔を照らし出す。
メッセージは来ていない、大好きなゲームすら億劫に思えてくる。
ベッドから立ち上がると、何にも例えようのない漠然とした空虚感が私を襲う。
少し広くなったベッド、一人きりの部屋、並んだコップ、洗いかけの食器、蝉の声、子供の笑い声、二つのクッション、色を失った日常......その全てが、このセンチメンタリズムの要因であるかのように思える。
物言わぬセンチメンタルは部屋の隅に蹲ったまま、ただ黙ってこちらを見つめていた。
いきなり、身体が全ての力を失い 私は床に崩れ落ちた。
地べたに這いつくばる身体は、鉛のようで動かせない。
静かな部屋の中で、身体の制御を取り戻そうとする頭だけが時を刻んでいる。
ふと、
「私がこのままこの場で朽ちたとしても、きっと誰にも気付かれず、世界はいつも通り回っていくだろう」
なんて使い古された妄想が頭をよぎる。
そのまま、静かに目を閉じる。
自殺願望か自己犠牲の精神か、はたまた依存性の強すぎる愛に終止符を打ちたいためなのかは知らんが、「このまま死ぬ」と考えた瞬間に全身が安堵に包まれ、その中に温もりさえ感じることができた。
少しだけ軽くなった身体を持ち上げて、再びベッドへと向かう。
何もしていないと言うのに、私の全身は疲労感に苛まれていた。
西日が差し込む窓を横目に、ベッドへと横たわる。
眠りに落ちていく最中、乾いた声でつぶやいた。
「......今日もまた、生き延びてしまった」
午後の日差しと微睡の中で 士田 蚕 @ningentteiina
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