A & U

「目的は、ふ、復讐か」

梅津はよく分からないことを言う。

「復讐?なんで。違うよ?」

「じゃあ、どうしてこんな」

「そもそもさ、梅津が私のところに来たのは本当にたまたまなわけ。だからまず、私は君の死に関与していない。で、埋められた後も別に酷いことなんてしてないよね?復讐、っていうのがよく分からないな」

まあ、色々嘘をついて梅津の無垢で綺麗な魂に力を加えてこの場所から動けないようにはしたけど。

「い、今更、正体を明かすのはどういうつもりだっていうんだよ」

「明かしてないよ。梅津が気付いてくれたんだよ。自分から明かさなかったのはその、ほら。好きな人に忘れられてたらショックじゃん」

「すきなひと?」

梅津の子供のような声色に、あ、そこから間違えてたのかって気がついた。

「そうだよ。私は梅津のことが好きなんだ」

「殺されても、埋められても、他の男のモノになろうと私は梅津が好きだよ。大好き。愛してる。だから、復讐とかじゃなくてただ単に、君とこの先もずっとずっとずーっと永遠に一緒にいたいだけ」

「そのための逃げ道を塞ぐのは当たり前のことだろう?」


「くるってる」

そう言った梅津を抱きしめ直す。カチカチと骨の合わさる音が心地良い。このまま眠ってしまいたいほどに。

そんな気持ちの時はどうでもいいことを考える。それは生前。随分昔の社会の授業の思い出。

教科書の中で、あるところで見つかった恐竜の化石が夫婦だとして紹介されていた。説明文を読むと、同じくらいの時期に同じ場所で死んでいるのが分かるからなのだとか。

他にも、とある遺跡で見つかった骨を親子だと紹介していた。一緒に暮らしていた痕跡が見受けられたからだとか。

それを見て、私は思った。いやいや、別のテリトリーに住む個体がたまたま居合わせたとしても、全くの他人がそこに放り込まれただけでもその状態は成り立つよねって。そんなひねくれたことを思った。

まあ、歴史の学者さんたちがどんな風に判断してるかなんて本当のところ私には分からないし、興味もないけど今はこう思う。

そういう夢のある話を私たちの骨にも付加してしてほしいな、って。

私と梅津が愛し合って心中しただの、お互い庇いあって愛の末に死んだとでも解釈してほしい。私たちが愛し合っている存在だって世間中に広めて欲しい。永遠の愛の価値を付けて欲しい。

でも、それには多分まだ年月が足りないから。

「ねえ、梅津。土の中で眠ろう?何百年後、いや、何千年後の誰かが私たちを見つけてくれるまで、さ。誰にも見つけられなかったら二人で永遠に愛し合おう。二人で永遠の愛を証明しよう?」

「やだ、ねえ、やだ、だれか、だれかたすけてねえだれか」

悲鳴を上げる梅津の声は聞こえない。幽霊ってそういう自由なものだから(私にめちゃくちゃにされた梅津は除く)。聞きたいことだけ聞いて、やりたいことだけやれるのが幽霊のいいとこなんだから。

だからずーっと一緒に居られる。二人が化石になるまでなんて、どんなに素晴らしいことだろう?

私はとても幸せな気持ちで、永遠の愛の連れ合いを抱きしめるのだ。


二人で化石になれる日を夢見て。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

Fossil 292ki @292ki

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ