あーさん & 梅津

「あーさん、これってさ」

「あーさん、幽霊ってさ」

「あーさん、あーさんの昔ってさ」

ウーン、可愛い。好みの男に懐かれるのめちゃくちゃ楽しい〜死んでも良かった〜。

まあ、土の中二人きりなのでさもありなん。梅津は私にたいそう懐いた。懐く梅津が可愛いので私も梅津を甘やかした。以下無限ループ。

その結果、土の中で私と梅津がナチュラルにイチャつく幸せ空間が爆誕して私はハッピーである。

「いや、本当に何で俺芝浦となんか付き合ってたんだろうな……あーさんの方が数億倍いい男なのに……」

最近はこんな言葉までもらった。ふはは、聞いたか芝浦!!聞かなくてもいい。この可愛い梅津を私の元に遣わしたことだけを誇りにさっさと死ぬがよい。それがお前に出来るただ一つの贖罪だ。

「あー、じゃあ付き合っちゃう?死んでるけど……」

と、こうなるのも自明の理。

「俺で……よければ……」

それに梅津がOKしてくれるのも自明の理!!私は最高に舞い上がっていた。こんなに嬉しいのは生前私をえいっ!(比喩)した恋人に告白してOK貰った時ぶりである。浮かれポンチ幽霊誕生!

そんなこんなでウフフアハハと楽しく同居生活を送っていた私たちに最大の試練が訪れた。

そう、土砂崩れである。


「俺……怖いよ、あーさん」

「大丈夫、梅津のことは命に代えても守ってみせるよ」

風が山中の木々をミシミシと揺らしていく。雨が土にどんどん染み込んで、地盤が緩くなっていく。台風が絶賛大接近中なのである。

「だって、土砂崩れが起きたら俺たち、離れ離れになるかもしれないんだろ?そうならなくても、あーさんの骨、埋まっちゃうかも……」

「そうならないように私も頑張りますよ。先輩幽霊としてね」

梅津を安心させようと声をかけるが、それも虚しく、遂に私たちが埋められている場所が動いた。出来る限り深く埋められているとはいえ、それは人間の力の範囲内。自然の前には無力だ。

「あー、さん!」

「梅津!」

転げ落ちていく。混じりあっていく。下に?上に?分からないけれど……梅津の嘆きの声が聞こえては消える。私は。


「あーさん!あーさん!何処に…!?」

「ここにいるよ。梅津」

「あーさん?」

焦る梅津に声をかけると梅津ははっと平静に戻った。

「どうやら、私は梅津を抱きしめているような形になっているみたいだ」

「え……あ、本当だ」

「しかも前より見つけづらい場所に入ったみたいだ。いやー、凄いな」

「ふ、はは。そうだな。まるで奇跡だ……」

「ね。本当に奇跡みたい」

私たちはけらけら笑い合う。

「ふふっ、これで俺たち、ずっと一緒だな」

「そうだね。ずーっと、一緒だ」

「ね、あー」

ふと、梅津の声がぴたりと止まった。

「どうしたの?梅津」

「え、いや、あれ?おかしいな」

「梅津?」

「あ、のさあーさん」

「うん」

「ここの場所ってなんてとこか……分かる?」

「ここって……私たちの埋められてる場所ってこと?」

「あ、いや、分かんないよな?分かるはずないよな。だって、あーさんずっと土の中だったし記憶だって曖昧だしさ」

「わかるよ」

「え」

梅津が息を飲む音が聞こえる。

昨日より間近に梅津がいるから。

昔よりずーっと近くに肉も皮も血も隔てれないくらいに梅津を感じる。

「ここはね、白樺山しらかばやま


「地元民にはシカバネ山とか呼ばれてるかな。冗談で死体が埋まってそう〜とか言って。実際は暗くて鬱蒼としてて誰かの私有地で禁猟区の山だから誰も入らない山なんだけど………まあ、こうして本当に死体が埋まってるなんて、誰も考えないよね」

「あ、のさ、あの」

「なあに?梅津」

「その指輪って……」

「あ、これ?」

私は骨と魂以外に残されたもうひとつ。薬指に嵌った指輪を見た。

「これはね、私を殺して埋めた恋人に貰ったんだ。素敵でしょ?」

指輪には刻印がされている。ペアリングだから。私と彼と二人のイニシャルを。

A & U

「私の顔、思い出した?梅津」

「あ、しな?」

「ぴんぽーん。大正解〜」

可愛い可愛い私の梅津。可哀想に怖くて怖くて仕方がないって顔をして。

「君に殺されて埋められた君の恋人の芦名あしなだよ」

でも、私は君のその顔、好きだよ。

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