私 & 同居人くん

同居人くんは私のすぐ横に掘られた穴の中で眠っている。

生きていたら私も同じくらいの年齢のはちゃめちゃに私好みの顔をした男の死体。それが同居人くんなのだった。

まあ、当たり前なのだが、この同居人が増えるまでには経緯がある。いきなり人の死体は増えたりしない。


あれは数日前の夜……一人の男が私の埋まっている土の近くを挙動不審気味にウロウロし始めた。

私としては男の歩く音がうっせーな!と少し怒り気味にひゅーどろどろどろと久方ぶりにふわふわ幽体となってその挙動不審男の観察に入った。私だって四六時中そこらをふよふよ浮いていないのである。殆どは土の中の骨の中に閉じこもるという二重引きこもり生活を送っている。その方が楽なので。

しかし、このように周りの様子をしっかり見たい時などは意識を外にぽーんと出したりもするのだ。

男は残念ながら零感れいかんだったようで、私の姿は欠片も見えていないようだった。残念。私の姿が見えていればビビって逃げてくれたかもしれないのに。

仕方が無いので挙動不審男を観察する姿勢に入ると、暫くして男は本当に私の埋まっているすぐ側で止まった。

そして、猛烈な勢いで土を掘り始めたのである。

最初は手で、お次は近くに停めてあった車から取ってきたスコップで、ザクザクほりほり狂ったように穴掘りを始めた。

これには私もビビる。何せ、近くには私の死体が埋まっているのである。面白半分の迷惑行為なら今すぐ止めてお家に帰って欲しい。安らかに眠らせてくれよ……。

今更ながら、ラップ音やらポルターガイストに精を出してみるものの、零感に加えて必死過ぎるせいで自然の奏でるハーモニーのひとつとして処理されてしまったようである。遺憾の意。とにかく男は掘り続けた。私の骨がちょっと見えちゃうくらいまで必死に必死に掘り続けた。

もうどうにでもなれ〜と成り行きを見守るしかないフェーズに突入し、私の目が死んでるのに死んだところで男はようやく掘るのを止めた。

そして、車に戻って大きなブルーシートに包まれた何かを抱えて戻ってきた。

「はあ、はあ、悪く思うなよ......言うこと聞かないお前が悪いんだからな......」

男はそんな何処かで聞いたようなことがあるようなことを息も絶え絶えに言った後、何かを勢いよく穴の中に放り込んだ。

何かはゴロゴロと勢いよく転がって、その過程でブルーシートが外れ、私の骨がちょっと見えている例のゾーンまで転がって止まった。

それが前述した鮮血滴るめちゃくちゃ私好みの男の死体だったのである。

なるほど。これは所謂死体埋め。死体遺棄の現場だったのだな、と私は一人納得する。思い返せば数年前、私も愛する恋人にやられたものである。


男はその後、手早く死体に土を被せると車に乗って帰って行った。先程までの挙動不審さを忘れたかのような鮮やかな帰宅だった。

私は男の帰っていく方向に手を振ってから土の中に埋められた同居人の顔を見に行った。見れば見るほどめちゃくちゃ顔が良くてウットリしてしまう。娯楽も何もなかった土の中に突如としてやって来た芸術品。埋めた男に関しては早々に彼が掘り起こされないように何とか警察や罪の意識から粘って欲しいもんである。

私は彼を観察し続けた。来る日も来る日も観察し続けた。その綺麗な顔の肉が腐り、溶け、だんだんと骨が露出していく様さえも私を魅了した。

そうして、ある日彼は完全な白骨死体になった。あの夜からどれくらい経ったのかは分からないが、そんなことはどうでもよくて。私とお揃いの白骨死体になったのが嬉しくて私は小躍りしたいくらいだった。

白骨死体になっても彼は美しい。

嬉しいことは続く。彼が完全な白骨死体になったその日。

「…………ここは、何処だ」

彼は私と同じ、地縛霊になったのである。

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