スタート 1時間・2メートル

 カラン、と体が揺れて目を覚ます。背中に焼けるような痛み。


 そして直ぐに体中が熱い液体に包まれている事に気付いた。



「マーキュリー!目が覚めたか!潜れ!熱で体がやられている!」



 ラドクリフの声にしたがって下へと沈みこんだ。液体も高温であり、体が悲鳴をあげるがそれでも外気に触れていた背中の痛みが和らぐ。ここはまさか、



「地獄か!外へ出たのか!ラドクリフ!」



「そうだよ!あいつら僕たちを一ヶ所にまとめてこうしてそのまま放置した!じわじわと熱で殺す気らしい!」



「何のために!」



「知らないよ化け物の考えなんて!」



 外の、光と熱の地獄よりは遥かにマシではあるがこの液体に満たされたプールも充分に熱い。このままでは何時間もしないうちに



「希望を捨てるな!最後まで生き足掻け!」



 叱咤が響く。



「ラドクリフ!どこにいる!?」



「動くな!……じっとしていろ。ギリギリまで体力を温存するんだ。必ずチャンスは来る。生きてここを脱出するんだ」



「……すまない、わかった。しかしどうやって?」



 意識の薄い仲間たちが液体の中を漂っている。この体を蝕む熱への恐怖も薄いのだろうか。だとしたら何て羨ましい。



「今は考えている余裕はない。とにかく心を無にしてこの液体の中に潜っているんだ。時が来るその時まで」



 自分とラドクリフの地獄の耐久レースが始まった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る