第31話 衝撃の新事実

「ドラコ・セプテンバーさんってどなたですか?」


 ロザリィ様にニーナちゃんが訊ねた。


「セプテンバー公爵家の長男ですわ。わたくしたちと同い年で、この世代の社交界の中心的な存在でしたのよ。魔法の才能にも恵まれていて将来を嘱望されていましたわ」


「へぇー、凄い人なんですねぇ。…………あれ? そんな人クラスに居ましたっけ?」


「居ないから廃嫡されたんですわよ」


 ロザリィ様は紅茶を飲みながら端的に言った。わたしがその事実を知ったのはつい昨日、アリシアから教えてもらってのこと。


 ドラコくんが不合格になったことは入学式後のオリエンテーリングの時間でわかっていたけど、まさかセプテンバー家から廃嫡されるなんて予想外だった。


「確か、ドラコ・セプテンバーは入学試験の模擬魔法戦でアリスさまと戦ったんでしたわよね。わたくしは見られませんでしたけれど、結果はどうでしたの?」


「師匠の圧勝です。反撃の暇すら与えずに瞬殺でした」


「悪いことしちゃったなぁ……」


 いくらムカついていたとはいえやり過ぎた。不合格だけならまだしも、廃嫡させるつもりはなかったのに……。


「別に姉さまのせいじゃないわよ。あいつの自業自得だわ」


 と、そう言いながらわたしたちのテーブルに朝食を持ったアリシアがやって来た。


「おはよー、アリシア。今日はちょっと遅かったね」


「今朝届いた手紙に返事を書いていたから遅れたのよ。それより、ドラコの件は姉さまが気にする必要なんてないわ。元々素行の悪さで有名だったし、廃嫡されたのも学園に入学できなかったからじゃなくて、その後で暴れた挙句に家出して行方不明になったのが原因だから」


「えぇっ!? ドラコくんが行方不明!?」


「そ。姉さまと同じね」


 隣に座ったアリシアの視線が鋭い。わたしも一切行く先を告げずに家を飛び出したから行方不明扱いだったんだろうなぁ。


「そ、そのドラコさんって人どこに行ったかわからないんですか……?」


「いちおう、セプテンバー家が探しているみたいよ。ただ、今のところ見つかっていないみたい」


「探しているのに廃嫡ですか」


「派閥内での面目のためね。セプテンバー家は姉さまの件でオクトーバー家を激しく糾弾して勢いを増していた。それなのに身内で同じようなことが起きちゃったから、派閥を維持するためにも厳しい対処をするしかなかったのよ」


「自分で自分の首を絞めたわけですわね。ただそれでも派閥の引き締めが完全にできているわけではない、と」


「アリシア。わたしさっきセプテンバー派の家の子たちにお茶会に誘われちゃったんだけど、アリシアにお願いしてもいいかな? ケルナー子爵家とワトソン男爵家の子たち」


「えー……。まあ、姉さまがお茶会に参加しても仕方がないけど……。どうにか時間を作ってみるわ。母様からもセプテンバー派からの接触は報告するよう言われてるし」


「さすがアメリア様。機を見るに敏ですわ」


 ロザリィ様がお母様の対応を称賛する。お母様もドラコくんの廃嫡をセプテンバー派の切り崩しの好機と捉えて色々と動いているみたい。


「ま、この件で何より重要なのは姉さまに対する風当たりが弱まったことね。姉さまを率先して馬鹿にしてたドラコが入学出来なかった上に廃嫡されたんだもの。取り巻きだった連中もだんまりを決め込むか、手の平を返すか悩んでるみたいだし」


 言われてみれば確かに、アリシアやロザリィ様が危惧していたような嫌がらせは結局誰からも受けなかった。それどころか日に日にわたしに対する蔑みの視線や嘲笑は感じられなくなって、何ならさっきのようにお茶会に誘われるまでになっている。


「さすが師匠です。ここまで見越してドラコを瞬殺したんですね」


「ぜんぜん見越してないよ……?」


 さすがにドラコくんが廃嫡されると知ってたら少しくらいは手加減していたと思う。


 アリシアは彼の自業自得だって言うけど、直接手を下してしまったのはわたしだからなぁ。もしどこかで会えたら一言謝りたい。


 でも、行方不明ってどこに行っちゃったんだろう? ドラコくん、わたしみたいに一流の魔法使いになりたいから旅に出るって感じの子じゃなかったと思うけど……。


「そういえば姉さま、母様と連絡は取ってるの?」


「へ?」


 アリシアから急に尋ねられてわたしは思わず間の抜けた声を出してしまった。そんなわたしの反応を見て、アリシアは額に手を当てて溜息を吐く。


「まあ、そんなこったろうとは思ってたわ。母様のことだから姉さまが王都に戻ってきて王立魔法学園に入学したことは把握してるだろうけど、いい加減に仲直りしたほうがいいわよ。セプテンバーと違って、母様は周りからどれだけ言われても頑なに姉さまを廃嫡にしようとしなかった。姉さまがいつでも帰って来れるようにしてくれてたのよ」


「お母様が……」


 わたしはてっきり、とっくの昔に廃嫡されているものだと思ってた。そっか、わたしまだオクトーバー家の人間なんだ。でもそれだと……、


「家に帰ったらまたすぐに縁談なんて話にならない……?」


「その点に関しては問題ないわ。あたしも姉さまも家を継ぐ必要がなくなったし」


「へ? どういうこと?」


「生まれたのよ、四年前に。家督相続者おとうとが」


「え……? えぇえええええええええええええええええええええええええええっっっ!?」

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