第24話 果たし状

   ◇◇◇


 入学式が終わり、教室でオリエンテーションが行われた後の昼休み。わたしはミナリーが作ってくれたサンドイッチが入ったランチボックスを机に置いて、その横に突っ伏していた。


「えっと、アリスさん。げ、元気出してくださいね……?」


「ありがとー、ニーナちゃん。ニーナちゃんは優しいねぇ」


「い、いえっ! わたしなんて全然そんなっ……」


 前の席に座るニーナちゃんがわたしを心配して話しかけてくれた。近くに居るのはニーナちゃんだけで、ミナリーは少し前にお手洗いに行ってきますと言って教室を出て行った。その後にロザリィ様も手を洗ってきますわと言って居なくなった。


 残されたわたしとニーナちゃんは二人の帰りを待っているところだ。二人とも、遅いな……。


「あの、アリスさん。ところでさっきから、周囲からの視線を感じてしまうのはわたしだけですかね……?」


「へ? あー……。まあ、注目されちゃうよね。気にしないほうがいいよ」


「そ、そう言われても気になりますよぅ」


 教室の隅に居るわたしたちを、少なくない数のクラスメイトが無遠慮に見ている。中にはわたしたちを見ながらあからさまに嘲笑うような子も居て、正直居心地はあんまりよくない。だけどこれは、ある種の仕方のないことだった。


 貴族出身者自分たちを差し置いて主席合格した平民の女の子と、社交界で笑いものにされている無能令嬢が一緒にお昼を食べようとしている。その一幕だけで、わたしたちを快く思わない子たちにとっては会話のいいおかずになる。


 ロザリィ様と懇意にしているわたしたちは、王立魔法学園への入学をきっかけにロザリィ様とお近づきになりたかった子たちからは目の敵にされても不思議じゃない。


 しかも今はわたしたちを守るように一緒にいたロザリィ王女殿下も席を外している。陰口なんて言い放題だ。直接危害を加えてくることは、さすがにないと思いたいけど……。


 ……アリシアが言ってたことって、こういうことだよね。


 家にも王都にもあんたの居場所はどこにもない。それだけわたしには敵が多いってことで、きっとあれはアリシアなりの警告だったんだと思う。


 辛い目に合わない内に退学をお勧めするわ、なんてわたしの身を案じてくれているから出てくる言葉だ。んもぅ、アリシアったら相変わらず素直じゃないんだから。


 ……なんて。素直じゃなくさせてるのはわたしなのにね。


「そんなことより、どうすればアリシアと仲直りできるかなぁ」


「こ、この状況でわたしに聞くんですか……!? え、えっと、えっと、やっぱり話し合いを重ねることが大切だと思いますよ……? お互いが何を考えて、どう思っているかの擦り合わせをする所からかと……」


「擦り合わせかぁ。アリシア、話聞いてくれるかなぁ……?」


「そ、そこはやっぱり根気強く聞いてもらえるまで頑張るしかないのでは……?」


「そっか……。うん、そうだよね。やっぱり、そうするしかないよね! ありがと、ニーナちゃん! 相談乗ってくれて、さすがシスターさん!」


「も、元シスター見習いですけどね……。でも、お役に立てたなら嬉しいです」


 ニーナちゃんは照れ臭そうにはにかむ。ニーナちゃんの言う通りで、やっぱりアリシアともっと話し合うしかないよね。まずは黙って家を飛び出しちゃったことを謝って、わたしの今の気持ちをアリシアにちゃんと伝えて理解してもらう。


 ……ううん、それだけじゃない。わたしがちゃんと、アリシアの気持ちも理解してあげなくちゃいけない。ニーナちゃんの言う擦り合わせが必要なんだ。


 よぅし、そうと決まればまた後でアリシアの所に行って話してみよう。


 その前にちょっと小腹が空いたからサンドイッチを早く食べたいんだけど、ミナリーとロザリィ様はいつになったら帰ってくるんだろう……?


「大変っ! 大変ですわ、アリスさまっ!」


 なんて思っていた矢先、血相を変えたロザリィ様が息を切らして教室に入ってきた。何事かとクラスメイト達も注目する中、ロザリィ様は一目散にわたしの元へ駆け寄ってくる。


「大変なんですのよっ!」


「ど、どう大変なの?」


「ミナリーが、と、とにかく来てくださいましっ!」


「あ、ま、待ってくださいよぉ! わたしも行きますぅっ!」


 ロザリィ様はわたしの手を掴んで教室から引っ張り出す。その後にニーナちゃんも続く。


 わたしたちはロザリィ様を先頭に廊下を走って、向かっているのは校舎と隣接するクラブハウスの方だった。ロザリィ様がミナリーの名前を口走っていたけど、ミナリーに何かあったの……!?


「ここですわ!」


 やがて辿り着いたのは生徒会室。開け放たれた扉から中を覗くと、中にはミナリーとアリシアの姿があった。二人は執務机を間に対峙していて、椅子に座ったアリシアがミナリーを見上げて睨みつけている。


 ふ、二人とも何やってるの!?


「果たし状だなんて、随分と古風な真似をしてくれるじゃない?」


「は、果たし状!?」


「さっきは師匠に邪魔されましたからね。その続きをやろうって話ですよ」


「ちょ、ちょちょちょちょミナリー!?」


 いったい何がどうなってそういう話になってるのかさっぱりわからない。


 というか、ミナリー果たし状って血の気多すぎるよ!?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る