第25話 ないんかい!
「ふ、二人ともすとーっぷぅ! ど、どうしてそんな話になってるの!?」
「師匠には関係ない話です。ニーナ、師匠を捕まえておいてください」
「姉さまには関係のない話よ。ロザリィ、姉さまに邪魔させないで」
部屋に踏み入ろうとしたわたしを左右からニーナちゃんとロザリィ様が羽交い絞めにする。ちょ、ちょっとちょっとちょっとぉ!?
「ふ、二人ともわたしじゃなくてあの二人を止めようよ!?」
「アリスさん、時には話し合いではなく殴り合いで解決する事象もあるかもしれません。そこはかとなく青春の香りがします」
「ニーナちゃんさっきと言ってること真逆だよ!? 青春の香りってなに!?」
「大丈夫ですわ、アリスさま。ミナリーも、考えがあってのことですわよ」
「み、ミナリーの考え……?」
た、確かに、ミナリーは何も考えずに果たし状を叩きつけるような子じゃないと思うけど……。
「言っておくけど、あんたの誘いにあたしが乗るメリットがどこにもないわよ? さっきの続きって言われても、あたしには続ける気なんてないんだから」
「本当にそうですか? 先ほどは魔法を使ってでも師匠を退学させたいかのように見えましたが」
「だったらなに? まさか退学を条件にでもするつもりかしら?」
「それであなたが果し合いに応じるのであれば、やぶさかではないです」
「なっ……」
ミナリーの返事にアリシアが言葉を詰まらせる。
「あなたが勝てば、私と師匠はこの学園を去ります。もちろんあなたがそれを望むのであれば、の話ですが」
「大した自信ね。あたしも随分と舐められたものだわ。まさか本気であたしに勝てるとでも思ってるわけ?」
「思っていなければこんな話はしませんよ」
「……っ! いいわ、その度胸だけは買ってあげる。だけど重要なことをまだ聞いてないわね。あんたが勝った時はあたしに何を望むのよ? 姉さまとの和解? それともあたしの退学かしら?」
「妹弟子」
「……は?」
「私が勝ったら、あなたには私の妹弟子になってもらいます」
「…………はぁ?」
アリシアはミナリーが何を言っているのかわからない様子で、わたしの方へと視線を向けてくる。わたしもミナリーがどんな意図でその発言をしているのかわからなくて、首を傾げることしかできなかった。
「ずっと欲しかったんです、妹弟子」
「それ、あたしである必要ってあるの?」
「……ないですね」
「ないんかい!」
アリシアが拳を机に打ち付けた。
「あんたねぇ! あたしと姉さまを和解させたいならもっとマシな理由を考えなさいよ!?」
「和解したいんですか? それならそれで構いませんが」
「あ、いや、そんなわけないでしょ!? いいわよ、もうそれで! あんたがあたしに勝ったら妹弟子でも何でもなってあげるわよっ! その代わり、あたしが勝ったら姉さまを連れて王都から出て行ってもらうわ!」
「交渉成立ですね。今からしますか?」
「するわけないでしょ! 二年生は午後からも普通に授業があるのよ。放課後、円形闘技場に来なさい。目立ちたくないから生徒会長権限で貸し切りにしておくわ」
「お心遣い感謝します。それでは」
ふんっと鼻を鳴らして腕を組むアリシアから向き直って、ミナリーはわたしの方へと歩いてくる。
「そういうわけです、師匠」
「いや、どういうわけかまったくわからないよ……?」
ミナリーなりに色々と考えた末の行動……だとしても、その意図をまったく掴めない。アリシアと果し合いをしてまで妹弟子が欲しいとも思えないし……。
「ちょっと、話し込むなら外でしなさいよね!」
「あ、うん。ごめんね、アリシア。その……またね」
「ふんっ」
アリシアは不機嫌そうにそっぽを向く。わたしたちはひとまず生徒会室から廊下に出た。
「……まったく、あなたが生徒会室に乗り込むのを見たときには肝が冷えましたわよ。それで、どうして果たし合いなんですの? まさか本気でアリシアを妹弟子にしたいわけではないですわよね?」
わたしが気になっていたことをロザリィ様がミナリーに問いただした。ミナリーはちらりとわたしを見てから、答える。
「師匠によると、私と彼女は似ているそうなので」
「似ているって、答えになっていませんわよ……」
「師匠、私を信じてくれますか?」
ミナリーの真っ赤な瞳がわたしを見つめる。その瞳が僅かに揺れたのを、わたしは見逃さなかった。……不安なのかな、ミナリーも。
ミナリーなりに色々と考えて、さっきのはその末に選んだミナリーなりの最善の手段だったんだよね? それが正しいのかどうか、ミナリーは不安を感じている。わたしにも、それが正しいのかどうかなんてわからない。
だけど、
「わたしはミナリーを信じるよ」
弟子だとか師匠だとかそういうのとは関係なくて、ミナリーの選んだことだからわたしは信じたい。だってミナリーは、わたしとアリシアのために動こうとしているんだもん。
「ありがとうございます、師匠」
「……まあ、当人たちがそれで良いならわたくしからはもう何も言いませんわ。それにしてもお腹が空きましたわね。昼休みもまだ時間がありますし、早く教室に戻って食事にしましょう。ミナリーの作ったサンドイッチが気になりますわ」
「あ、それなんですけど」
ニーナちゃんは手にずっと持っていたランチボックスを掲げて見せる。
「教室に置いておくのも不安だったので持ってきちゃいました。せっかくなので外で食べませんか?」
「ナイスアイデアですわ、ニーナ。わたくし、一度でいいからお友達と外で一緒にお食事をしてみたいと思っていましたの」
「ちょっ、ロザリィ様!? 引っ張らないでくださいよぉっ」
ロザリィ様はニーナちゃんの手を引っ張って外の方へ向かって駆けていく。
「わたしたちも行こう、ミナリー」
「はい」
わたしとミナリーは手を繋いで、二人の後を追いかけた。
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