第5話 姉弟子?
「師匠、この人は誰ですか?」
ミナリーに問われたわたしは少し困りつつ頬を掻いて答える。
「ロザリィ・マグナ・フィーリス王女殿下。えっと、この国のお姫様だよ」
「なるほど、お姫様ですか……。で、どうしてそのお姫様に師匠が抱き着かれてるんですか?」
ミナリーはさして驚いた様子もなく、真っ赤な瞳でわたしをジィっと見つめる。い、いつにも増して視線が鋭い気がするんだけど……?
「わたくしもお聞きしたいですわよ、アリスさま。そちらの失礼な女はいったいどこのどなたですの?」
「あ、えっと。この子は……」
「私はミナリー・ポピンズ。師匠の弟子です」
「師匠? 弟子?」
ロザリィは抱き着いていたわたしから離れて、ミナリーをジィっと見つめる。
「……なるほど。失踪なされてから5年間、アリスさまはずっとあなたと一緒に過ごされていたということですわね」
「だったら何だと言うんですか?」
「アリスさまを賭けて勝負ですわ、ミナリー・ポピンズ!」
「えぇっ!?」
ロザリィ様はビシィと人差し指をミナリーに向けてそう宣言した。
「受けて立ちます」
「即答!?」
そしてミナリーは間髪入れずに返事をする。わ、わたしを賭けて勝負ってどうしてそんな話になるの!?
「ふふっ。妹弟子がどれほどの実力か、楽しみにしていますわ」
そう言ってロザリィは金色に輝く髪を靡かせ颯爽と立ち去っていく。残されたわたしは話についていけずポカンとしながらその背中を見送って、
「師匠、妹弟子ってどういう意味ですか?」
ぐぬぅっと顔を近づけてきたミナリーに壁際まで追い詰められた。
「い、いやぁ。その、昔ちょっと……」
「ちょっと、なんですか?」
「え、えっと……。ミナリー、顔近いよぅ……」
ともすれば鼻先がくっつきそうなくらい近くで端正な顔立ちに見つめられ、思わず顔が赤くなってしまう。ミナリーに子供の頃の話をするのは気恥ずかしくてこれまで話したことがなかったけど、さすがに言い逃れできるような雰囲気じゃないよねぇ……。
「……えっとね、わたしの実家が貴族だって話は前にもしたよね……?」
「はい。確かオクトーバー公爵家でしたか」
「うん、公爵家。先祖は大魔法王マグナ・フィーリス様の血縁で、王家とは遠い親戚筋にあたるの。それもあってオクトーバー家は昔から王家とは付き合いがあって、小さい頃はロザリィ様の面倒を見てくれってよくお母さまや国王様に言われてて……」
「それでお姫様と親しい間柄になったと」
「うん。家出する少し前から会ってなかったけど、まさか今でもあんなに慕ってくれてるなんて思ってもなかったよ」
いきなり抱き着かれた時は気恥ずかしかったけど、あの頃と変わらない好意は素直に嬉しかった。最後に出会った時はあんなに小さかったのに、今じゃわたしよりも背が高くてすっかり女の子らしくなっていた。表情も大人びて、美人さんになったなぁ。
「で、妹弟子って何ですか?」
「うっ、やっぱり気になる……?」
「当然です」
ミナリーは心なしか拗ねたように頬を膨らませている。今まで見たことのないそんな表情に物珍しさと愛らしさを感じながら、わたしはどうしてミナリーが妹弟子になるのかを説明することにした。
「昔ね、ロザリィ様と、あとわたしの妹のアリシアと一緒に三人で遊んでいた時に魔法使いごっこをしたの。その時にわたしが魔法使いの師匠役で、ロザリィ様とアリシアがその弟子役みたいな感じで」
「……つまり、私は三番弟子ということですか?」
「ごっこ遊び! ごっこ遊びだよ、ミナリー! ちゃんとした正式な弟子はミナリーだけ!」
「本当ですか?」
「ほんとうほんとう! それに、ロザリィ様が本当の弟子だったら弟子をほったらかしにして家出なんてしてないよ?」
「……そう、ですか」
ミナリーはようやく信じてくれたみたいでわたしから顔を遠ざける。へ、変に緊張しちゃったなぁ、もぅ。それにしても、ミナリーのこんな反応は5年も一緒に居て初めて見る。
「ミナリー、もしかしてロザリィ様に嫉妬しちゃった?」
「してません」
「えー? 今のミナリー浮気相手を問い詰めるみたいだったよ?」
「違うます。そういうのじゃないです」
「またまたぁ。本当は師匠に自分以外の弟子が居ると思って焦ったんでしょー? んもぅ、ミナリーったら甘えん坊さんなんだから。ほら、ミナリーもわたしの胸に飛び込んでおいでー?」
「張り倒しますよ?」
「痛った! もう張ってる! 言葉より先に手が出てるよミナリー!?」
照れ隠しをするように頬を染めてポカポカと軽く叩いてくるミナリー。いつもクールで完璧な弟子の子供っぽい姿が久しぶりに見られて、師匠としては大満足だった。
そうこうしている内に午後からの実技試験が始まり、追いかけっこをしていたわたしたちは時間ギリギリで試験会場に到着した。
会場の出入り口付近に立っていたロザリィ様から「いつまでも来ないから迷子にでもなったのかと冷や冷やしましたわよ」と言われてしまう。どうやらわたしたちの到着を待ってくれていたみたいだ。
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