第6話 魔力量測定
実技試験の会場は学園の大図書館棟だった。大勢の受験生が集められたエントランスの中央に鎮座するのは、わたしの背の3倍はありそうな巨大な水晶の柱。それを見上げて、ロザリィ様が言葉を紡ぐ。
「これが噂に聞く魔力水晶ですわね」
「魔力水晶?」
「簡単に説明すると、触れた人が体内に持つ魔力を数値にして表示してくれる魔道具だよ。大魔法王マグナ様の発明品なんだって」
首を傾げたミナリーにわたしが説明していると、試験官を務める先生たちが受験生たちの前にやってくる。
「これから受験生の皆さんには一人ずつ魔力水晶に触れて体内に有している魔力量を測定してもらいます。学園が設定した基準である魔力量15000を下回った受験生はこの場で即失格です。魔力量15000を上回った受験生のみ次の試験に進むことができます」
試験官の先生の言葉に受験生から騒めきが起こる。周囲を見渡せば、みんな不安が表情にありありと浮かんでいた。
「師匠、魔力量15000とはどの程度のレベルなんですか?」
「えぇっと、王国に住む魔法が使える一般的人の平均魔力量が5000だったかな。王国が誇る精鋭の近衛魔法師団の平均になるとこれが30000になって、近衛魔法師団の指揮官クラスだと確か60000を超えるらしいよ」
「なるほど。つまりは一般人の3倍、精鋭魔法使いの半分程度の魔力量がないと基準を満たせないということですね」
「うん。だからこの基準はけっこう厳しいんじゃないかな。かくいうわたしも基準を満たせるかどうか……」
「え?」
ミナリーは不思議そうな瞳をわたしに向ける。わたし変なこと言ったかな? わたしの魔力量ってミナリーに比べたら全然だと思うし、魔法を使いすぎるとすぐに魔力切れでダウンしちゃうから、ちょっと不安なんだけどなぁ。
「それではこれより魔力量の測定を始めます。我こそはという方はいらっしゃいますか?」
試験官の先生の呼びかけに、受験生たちは互いの顔を見合わせる。魔力量15000という厳しい合格ライン。そして、それを下回ったら即失格という恐怖。受験生たちは口々に「お前行けよ」「そっちこそ」と言い合っている。
そんな中で、
「では、わたくしが一番槍を務めさせて頂きますわ」
スッと手を上にあげて、魔力水晶の方へ歩き出したのはロザリィ様だった。
「ロザリィ様だ……!」
「そっか、王女殿下も俺たちと同い年か!」
「いつ見てもお綺麗ね……」
「さすがロザリィ王女殿下!」
受験生たちの歓声を浴びながら悠々と魔力水晶の前に歩み出たロザリィ様は、右手から白い手袋を外して素手で魔力水晶に触れる。
すると魔力水晶が淡い光を放って、光沢を放つ磨かれた表面に五桁の数字が浮かび上がった。
【魔力量:88492】
「は、88000!?」
驚きの声を上げたのは試験官の先生だった。その反応が、その数値の異常さを物語っている。受験生たちから驚きと歓声の声が上がる中、ロザリィ様は髪をふぁさっと靡かせた。
「ま、ざっとこんなものですわね」
さ、さすがロザリィ様。近衛魔法師団の指揮官クラスの魔力量を軽々と超えてくるなんて。小さい頃から〈風魔法の申し子〉と呼ばれているだけのことはある。
「……なるほど。あの人で約90000の魔力量ですか。それなら私は――」
「ミナリー?」
ミナリーな小さく何やら呟くと、一人で魔力水晶のほうへ歩いて行ってしまう。そのまま受験生たちの間をすり抜けて、ロザリィ様に続いて魔力水晶に相対する。
「妹弟子の魔力量がどれ程のものか、この目で見届けさせて頂きますわ」
「姉弟子面をしていられるのも今の内です。私の魔力量を見て吠え面をかかないでくださいね?」
「こ、このっ! 後からアリスさまの弟子になったくせに……っ!」
ミナリーはロザリィ様を挑発すると、普段のクールな表情にどこか自信満々な瞳を浮かべて魔力水晶に手を触れる。はたして、ミナリーの魔力量は――
【魔力量:25648】
「あれ……?」
師匠であるわたしが思わず首を捻ってしまうくらい、意外なほどに普通の数値だった。……いや、一般人の平均は遥かに超えてるんだけど、魔法師団員の平均以下? あのミナリーが?
いったいどういうことなんだろう? わたしが疑問に思っていると、ミナリーもどこか釈然としない様子で近くに居た試験官の先生に話しかける。
「この魔力水晶、壊れていませんか?」
「まさか。何にせよ、基準はクリアしていますから合格ですよ」
「……そうですか」
ミナリーはやっぱり腑に落ちない様子で合格者の待機スペースに進んでいく。
「ふふふっ、あーはっはっは。随分と自信があった様子ですけれど、実際は大したことありませんでしたわねぇ、ぷぷぷっ」
「口からおなら漏れてますよ」
「最悪! 最悪ですわこの女っ!」
あの二人仲良いなぁ……。
ロザリィ様とミナリーに続いて、受験生たちが次々と魔力水晶で魔力を測っていく。基準に達するのはだいたい五人に一人くらいという割合で、広々としたエントランスの八割を埋めていた受験生たちは次々に大図書館棟から退去させられていった。
やっぱり魔力量15000の壁は相当高いみたい。ミナリーで2万ちょっとならわたしの魔力量なんて5000にも届かないよぅ……。
「次! 次の方!」
「へっ!? あ、はいっ!」
試験官の先生に呼ばれて、わたしは緊張で震える足を必死に動かして魔力水晶の前まで歩いていく。
ちらりとミナリーのほうを見る。ミナリーは真っ赤な瞳でただまっすぐにわたしのことを見守ってくれていた。……うん、大丈夫。ミナリーが信じてくれているなら、きっと!
【魔力量:15001】
「あっぶなぁ!?」
びっくりするくらい基準ギリギリクリアだった!
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