第34話 途中までご一緒してもいいですか 

「それで先ほど伺った話なんですけど、実際にはどのような活動を行うのですか?」

 海端さんからの当然の疑問を投げかけられた百代は、目を丸くさせたまま席を立った。

「それはね、うん、これよ」

 百代がカウンターに置いてあった貸出しカード入れ、もとい依頼箱を持ってきた。

 海端がそこに書かれた文面を読み、戸惑った表情を浮かべる。

「あの……、これよって、どういう事ですか?」

 そりゃそうだ。

そこに書いてあるお題目は聞いていた話と違うだろうし、文面も一般人の常識から少しばかり外れてあることが書いてある。

「海端、引き返すなら今のうち……痛っ」

 海端のことを思って助け舟を出そうと思ったが、文字通り横から足が出てきた。

「何も学業とは学校だけで学ぶものが全てではないのよ」

「……へえ?」

 虚を突かれたのか、ぽかんとした表情を海端は浮かべる。

「そこに書いてある言葉の意味はね、このほ、でなくてこの地球上にある万物の不思議をも解き明かしたい、そういう高尚な活動も指しているの。学ぶ意識があれば何でも学業につながるものよ、そうよ、急がば回れよ」

 やましい気持ちが見て取れるようによく喋るなぁと思いつつ、この言葉で海端が説得できるのか限りなく不安だったのだが——彼女の表情を見るとそれは杞憂だったようだ。

「そんな深い意味があったなんて……、私、考えにも及びませんでした」

 俺も考えになかったぞ。いま初めて聞いたからな。

「海端さん、あなた幸運よ。この活動には私の眼鏡にかなった人しか参加できないから」

 そう言われると悪い気はしないが、ただ俺の場合は監視などという不愉快な事情があるから素直には喜べないが。

「選ばれたなんて、そんな……、はじめて言われました。うれしいです」

 当の海端の方はというと、上手いこと持ち上げられ、照れてうつむき喜んでいるが、百代の方はしてやったりとばかりの表情を包み隠さず、思いっきり顔に浮かび上がらせている。


                  ※


 その後は互いの連絡先を交換した後、丁度良いタイミングで面識のない教師が空き教室の見回りに来た。百代が口八丁でその場を取り繕うと俺たちは慌てて帰宅の準備に入った。

「よーし、じゃあ決定ね。とりあえず今日のところは遅くなってもいけないから、この辺りにしておきましょうか」

 そういうと百代はスキップしながら軽い足取りで「また明日ね」と告げ、準備室から鼻歌を交えながら出ていった。

「海端、本当に良かったのか?」

残された俺も帰り支度を済ませて帰宅するところだが、一つ心配があった。

「何がです?」

「考える間もなかったんじゃないか?」

 百代の威勢の良い押し問答で、嵐のように海端を押し切り断れなかったんじゃないかと、俺は多いに不安だった。

「……そうですね。確かに百代さんの説明だけでは不安なところもありますけど……」

 海端はこちらを見ると俺の方に近づいてきた。顔が近い。

「常識人な小綬さんもいますし、安心です」

 海端に息遣いを感じるほど至近距離で言われると恥ずかしいな。それ以上にうれしい気持ちが勝っているが。

「それに気になる事もありますから」

「何かあったのか?」

 真面目面持ちで、俺の目を真正面から見返してくる。

「……小綬さん、途中までご一緒してもいいですか」

 鞄を手に持った海端がそう提案した。



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