第33話 あんたはこっちよ

 家庭科部に迷惑を掛けてしまうような海端さんとのやり取りを終えた後、また百代と図書準備室に戻って来ていた。

 海端には家庭科部の活動を終えた後、この部屋まで来るよう伝えてきたので、それまで百代としばらく彼女を待つことになるわけだ。

「……というか、何で彼女を誘おうと思ったんだ?」

「なんで?」

「海端の勉強に取り組む姿勢に気を引かれたと言っていたけど、お前の言う活動目的とは関係ないだろう?」

 俺の質問に少しだけ間を取った後、百代は誇らしげな笑みを浮かべた。

「直観よ」

「直観?」

「直観よ。直観」

 いや、その言葉が聞こえなかったわけではない。

「この学校に来てからいろんな生徒を観察していたのは事実だけど、別に学業がどうこうとか、そんな些末なことは関係ないから」

「……その直観の具体的な理由は何なんだ?」

「そこら辺の有象無象を眺めている中、彼女は光って見えたのよ。まあ、私の美的センスにかなったというところね」

 同意しかねる言葉を躊躇なく並べていく百代。半場呆れつつも、ただ一つお前の美的センスに共感できるところはある。確かに彼女は俺にも輝いて見えた。

「小綬も、うれしいでしょ」

 俺の顔を見て「にやり」と表情を変える百代。思わずと頷いてしまいそうなだったが、何とか言葉を飲み込む。

「うれしいとか、まあ、そんなこと考えている訳ではないけどな。それにおまえと違ってまともそうな感じではあるからさ」

 ちょっとした嫌味で反撃してみたが、半ばあきれた目で「あっそ」と帰って来るのみだった。

 こう言うのもなんだが、俺の気持ちを何度も的確に見透かされ、百代の人を見る目は多少信頼はできる。なんてったって海端を見つけたのだから。


                  *

 

 海端さんが部活を終えるまでの束の間。百代は鞄から取り出した自前の文庫本を読み、俺は準備室内の年季の入った本を何気なく眺めていた。

海端さんは本当にここに来るのだろうかと若干不安はあったが、彼女と初対面の印象では無下に約束を破る印象は受けなかった。

「ごめん下さい。海端です」

 読めそうな本がなかなか見つからず手にとっては元に戻す行為を複数回繰り返していると扉を叩く音とともに礼儀正しい声が扉の向こうから聞こえてきた。

「待っていたわ。入ってきて」

 百代が入室を促すと失礼しますと声を掛けながら、恐る恐る海端が部屋内に入ってきた。

「少し遅くなってしまいました」

 時間はちょうど午後五時を回ったあたりだ。他の部活も大体この時間で切り上げて帰宅時間にはいっていた頃だと思い出す。海端さんと目が合うとこちらに向かって会釈をするので俺も会釈を返した。

「問題ないわ、こちらからお願いしたことだから」

 そう言いながら百代は海端さんを部屋に設置されている椅子まで手招きした。百代の向かいに腰掛けた海端さんの横の椅子に何気なく向かうと「あんたはこっちよ」との百代に上から指示をされ、渋々斜め向かいの席に座らされた。

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