第4話 神秘の世界

「……そういえば、さっき何か夢を見ていた気がするな」

 ……

…………

 ——頭の中に得体のしれない「何か」が浮かび上がったような気がする。なんだったのだろう。様々な色に変わりながら漂う、光のようであり波のような現象。

「またか」

 昔から度々、身に起こる感覚だ。

 既視感なのか錯覚なのか、何と言っていいかは自分でも分からないが、今のような感覚を覚えたとき、夢の中で不思議な出来事を体験してきた。

「良い夢ではないだろうな」

 今までも数回経験した出来事なので、特段の驚きもなく、ウトウトと睡魔に飲み込まれていった。

 …………

 ……

 ——ふと気づくと、息を切らしながら全力疾走をしている。

 何故走っているのかは思い出せないが、誰かに追われているような気がする。追われる理由は分からない。けれど、それから逃げていることは確かだ。

 まっしぐらに走っている。俺の視界に見える景色は、見覚えのあるような林道だった。そこを抜けると、今度は洞窟の中でつるつるする岩肌を滑らないようにバランスをとって走ったり、気が付くと水の中を見たこともない深海魚たちと泳いでいたりと、地球をトライアスロンをしているようだった。

 周りの風景は、いま誰かに追われている状況ではありながら——郷愁を感じるような——神秘的な美しさが心にやすらぎを与えてくれるようだ。

だが安堵して足を緩めようものなら、徐々に後ろからの圧迫感は強くなる。

 どんなに走っても、結局は距離が縮んでいく。追いつかれたらどうなるかは想像できない。

 この夢はいつも追いつかれる寸前で、冷や汗を伴って目が覚める。もう振り切ることは無理だと、走りながらも薄々自覚している。

 毎回の事だから、半ば結果は見えている。これが海岸で恋人にでも追いかけられているシチュエーションなら万人が喜ぶのだろうけど。

 ほら、徐々に鉛のように体が重くなってきた。走ってきた方向を振り返ると、全身が棒のように動かなくなった。向こうから誰かがゆっくりと歩いてくるが、靄がかかってよく見えない。

 このあたりのようだ。そしてこの夢も、今の纏まらない思考回路のように、あやふやな記憶になって、ただ何か、はっきりとしない夢をみていたんだろうと思うだけになる。

 …………これからも続くのだろうか。

 ……それに夢の最後に、誰か話しかけてくるような気がするけど、いつも思い出せない。気になって眠れなくなりそうだ——冗談じゃないぞ。

 …………

 ……

   ——あなたは世界を紡ぐことが出来る——

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