第37話 七幹部
超越者と対峙していたティアとフィアは地に伏せ、立ち上がることができずにいた。
「……気付くのが遅れた時はどうなるかと思ったが、流石はアインとシンだな。どうにかなったようでよかった。……さて、オマエたちはそろそろ懲りたか?」
「ふ、ざけんな……!」
割れた仮面の隙間から鋭い瞳がフォルトゥナを睨みつける。
「無理だ。起き上がれない。重力は絶対だ。気合いでどうにかなるものじゃない」
「《インクリース、二重奏(デュオ)》!!」
ティアは魔力循環による身体能力向上に加えて、能力によって身体能力を2倍にして無理やり立ちあがろうとする。
「やめておけ。それは長期的に強化するための能力じゃないだろう。無理をしすぎると死ぬぞ」
「黙ってろ……!」
ティアの《インクリース》は使用するたびに体力を消費する。消費量は増加させる量に比例し、継続時間によっても増えていく。だから彼女も彼女の力を使えるシンも、能力は瞬間的にしか使わない。何故ならインクリースを使用したまま戦闘を行なった場合、すぐに行動不能になるからである。
「わからないな。何故そこまで本気になっているんだ?」
「あぁ?!」
「オマエたちは何故異端を許せない。何故そうも執行者として命をかけてるんだ?」
「……別に、どうでもいいんだ」
なんとか立ち上がったティアは息を切らしながらそう吐き出した。
「なんなら私たちは人間が嫌いだし、執行者なんかやりたくてやってる訳じゃない。でも、私たちは執行者じゃないといけないんだ……!」
「わかった。ならしばらく寝ていろ」
現れた2つの魔法陣。それは意識を刈り取る魔術。今の2人には避けられない。勝負はここで終わりだ。
「──寝るにはまだ早いわね。幼児でもこんな時間には寝ないわよ?」
女性がそこにはいた。
雪のように白い髪、銀色の瞳。美という言葉を具現したような美しい容姿。誰も無視することのできないオーラを放つ存在。
第二次天魔大戦後に新たに生まれた超越者──ノレアだ。
「ノレア様、どうしてここに……」
「回収しに行くって連絡したでしょ? 帝国のせいで時間が掛かったけれど。それより2人とも、シンが一階にいるからそっちに合流してくれる? 魔術は解除したから」
「……! わかりました」
アンゲルスにおいて、七幹部であるノレアの言葉は絶対。それに超越者の相手をできるのは超越者だけだ。ここは大人しく指示に従う他に選択肢はない。
「それじゃ一階にどうぞ」
ノレアがそう言うとティアとフィの姿が広間から消えた。
これで残ったのはセミスとフォルトゥナ、ノレアだけ。
「さて、はじめまして叡智の超越。私はノレア。第七の超越者、理解の超越よ。どうぞよろしく」
「外界の異物がなんの用だ」
完全な初対面であるというのにフォルトゥナは嫌悪の感情が丸出しだった。取り繕うような様子など一切ない。
「酷い言いようね。私とあなたは親戚のようなものなのだからもっと仲良くしない?」
「一緒にするな。ワタシはこの世界で生まれている」
「不機嫌ね。私が何かしたかしら」
「キサマという存在自体をワタシが容認できないだけだ。事故ならともかく、わざわざ自分の意思で外界から訪れた者が遊び半分で世界に影響を与えるな。キサマは不要物だ」
「ふっ、酷いわね」
反論はない。何故ならフォルトゥナの言葉が正しいからだ。ノレアはルールに反している。しかし、そんなもの、彼女には関係ない。
「雑談はここまでにしてそろそろ遊びましょう。あなたは3人……いえ、一応4人になるかしら。楽しませて、ね?」
超越がぶつかる。
******
「誰?」
「誰でもいい」
「うーん、まあいいや。君もなんか強そうだし喰らっちゃお」
イナニスを突き刺すために伸びた木の根。とてつもない速さだったが、それらはイナニスの体に届く前に全て切断された。
「……は? 斬られた? いつ?」
木の根の速度は俺がぎりぎり目で終えるぐらいだった。しかし、それが斬られているということはイナニスがそれ以上の速度を出したことになる。
見えなかった。俺もビクターもイナニスの剣筋を追えていない。
「神器を捨てろ。そうすれば殺す必要はない」
「殺す? 殺すだと? 最強の僕を? はははは!!! ふざけるな。殺されるのはお前だ。圧倒的な力で斬り伏せる。最強を見せてあげるよ」
情緒がおかしい。元々ああなのか、神器によるものなのか、わからないけどビクターは完全に狂っていた。
「……シン。これを」
「スク、ロール……?」
「ドクターの治癒の魔術が刻まれている。使え」
スクロールは魔術を刻める魔道具だ。広げて少し魔力を流し込めば発動する。使い切りだが劣化なく保管できる。
スクロールを開いて魔力を流す。
するとスクロールは燃えてなくなり、腹に空いた穴があっという間に塞がった。流石はドクターの治癒魔術だ。これほど高位の治癒魔術を使える魔術師はそういない。
「ノレアの話では地下に魔法の発動を中断させる手がかりがある。そこを目指せ。ここはオレがやる」
「わかった。よろしく」
ビクターは俺の手に負えない。大人しくイナニスに任せて本館に戻ることにした。
「逃すわけないだろ」
いつの間にか俺の横に来ていたビクターが剣を振り上げた。速すぎて反応できない。殺される。この場にイナニスがいなかったらそうなっていただろう。
「はぁ!? な、なんで……?!」
振り下ろされた剣をイナニスが片手で受け止めていた。
「早く行け」
「うん」
イナニスなら問題なさそうだ。俺は本館に戻った。
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