第34話 神器
「エイデンと、モルティス。なんで……」
「なんでだぁ? こんな面白いとこに来ないわけねぇだろ」
「…………」
現れたエイデンとモルティスの2人。
彼らを見てビクターは楽しそうに声を上げた。
「あれれ! さっきの大会で強かった2人じゃん! いいなぁ、また餌が増えた!」
「誰が餌だ。気持ち悪りぃな」
魔術師として2人は強い。俺1人じゃ無理そうだったけど2人が力を貸してくれるのならまだなんとかなるかもしれない。
「ごめん。殺されそうだから助けて」
「言われるまでもない」
「仕方ねぇから少しだけ手伝ってやるよ。貸しだからな」
展開された8の魔法陣から稲妻がビクター目掛けて放たれた。動いた魔力的にどうやらエイデンのもののようだ。その間にモルティスが俺に魔法陣型の治癒魔術をかけてくれた。効果はそれなりに高く、痛みはほぼなくなった。
「戦えるか?」
「うん。ありがとう」
十分だ。戦闘に問題はない。
「おい、あいつも化け物かよ」
一方自分に迫る稲妻をビクターは斬り裂いていた。普通の剣でできる芸当じゃない。
「あの剣はただの剣じゃない。なるべく距離を取って触れられないようにして。でも俺の魔力壁を簡単に壊す斬撃も飛ばしてきたからそれも気をつけて」
「安全な場所ねぇじゃねぇか」
「うん」
それは各々なんとかしてもらおう。
「俺が前に出るから適当に遠距離攻撃しつつサポートして」
役割は大雑把でいい。2人とも頭がいいし、勝手にやってくれるはずだ。
「準備はできた? それじゃやろうか。三対一で」
まず最初に動いたのはビクター……ではなく、それより先にエイデンが動いた。
「手加減する必要がねぇのは楽だな」
100をゆうに超えるとんでもない数の赤黒い魔力の槍がビクターの頭上に生成された。
「出た。でもこれ刺さっても痛くないんでしょ?」
「いや、残念ながら普通の槍と同じだ。死ね」
「え」
エイデンが指を鳴らしたのと同時に、槍はビクターの位置に降り注ぎ始めた。あれが本当の槍と同じなら刺さった時点で、身動きが取れなくなって後続の突き刺されて死ぬ。エイデンは殺すという行為に躊躇いがあまりないらしい。
「でも、これ遅いよ」
わざわざ付き合う必要はないと判断したのか、ビクターは距離を詰めてエイデンに斬りかかった。だが、
「あれ」
刃がエイデンの体に届く前に、ビクターの位置が少し後ろに下がり、その結果彼の剣は空を切った。軽い転移魔術だ。座標をいじるなんて器用なことができそうなのはモルティスだろう。現に魔力が動いていた。
「シン」
「了解」
ビクターを蹴り飛ばす。そしてそのまま追って追撃。
体の動きが軽い。多分モルティスが俺に強化系の魔術付与してくれたようだ。
「いや、驚いた。思いのほか強そうだ」
追ってきた俺の不意をつくような形でビクターは剣を振った。カウンターだ。流石というべきか、タイミング的に躱せない。けど、今は1人じゃないのでなんとかなる。
「ちっ」
斜めの角度で現れた薄らとした赤黒い魔力壁が、滑らせるようにして斬撃の軌道を変えた。やっぱりエイデンは頭がいい。地面と垂直に壁を張っていたら多分そのまま砕かれてた。斬撃の危険性を伝えておいて正解だったな。
「〈パワー〉、《インクリース、三重奏(トリオ)》」
強化した拳で殴る。単純な攻撃だけどそれ故に強力だ。確実なダメージになる。
「悪くはない。でも足りないよ」
普通の人間であれば腕が砕けていてもおかしくない一撃を、ビクターは当然のように片手で受け止めた。
「──〈インパクト〉」
「おっと」
衝撃波で無理やり引き剥がした。仕切り直しだ。
「エイデン。防御ありがとう。そのままの調子で、あと魔力循環の妨害を狙ってほしい。魔力循環さえなくなれば相当楽になる。俺が近くにいても気にしないでいいよ。自分で避けるから」
「ああ」
「モルティスは俺の強化を継続しつつ、相手の動きを制限するように魔術を使って」
「了解した」
指示はこんなところか。残りは俺の役目だ。
赤黒い槍が天井にいつでも落とせるように生成された。魔力の残量は大丈夫なのだろうか。まあ使っているってことは大丈夫か。
「モルティス、俺のこと転移させられる?」
「俺が見える範囲なら」
「ビクターの近くまでよろしく」
「了解した」
流石だ。すぐに転移魔術は発動され、俺は間合いに入れた。しかも背後だ。まずこちらが有利に動ける……はずだったが、ビクターはまるでわかっていたかのようにすぐさま振り向きながら剣を振ってきた。予想外ではあったが、ギリギリで躱すことができた。反撃に移る。
「勘違いがあるよ」
「っ……!?」
こちらの攻撃よりも速くビクターの膝蹴りが俺の腹部に命中し、距離を離された。
そこにエイデンが槍の雨を降らせたが、全て神器の斬撃によって破壊される。
「束になったところで僕には及ばない」
ビクターの姿が視界から消えた。そう思った次の瞬間には彼はエイデンの首を掴んでいた。またあの速さだ。やはり捉えられない。
「が……!」
「そもそも君たち2人は戦いの素人みたいだしね」
そこは確かにそうだ。モルティスもエイデンも俺やビクターみたいに戦闘の経験が豊富なわけではないはずだ。実力はもちろん、命をかけた戦いではその差は大きい。
「はっ! 確かに、な。で、も、死地は経験……してるぞ……っ!」
エイデンは首を掴むビクターの腕を掴み返して、どこからともなく出現させた赤黒いナイフのようなものをそこに突き刺した。色からしてエイデンの魔力で作られたものだ。
「っ……! 痛ったいなぁ!」
掴んでいたエイデンは近くの壁に投げつけられた。壁に打ちつけられて血を吐き出している。あの様子だともう戦えそうにないかもしれないな。でも十分だ。
「あーあ、刺さっちゃった。でも物理的に干渉されてるなら引き抜けるのかな」
「させるわけがないだろう」
火の玉がビクター目掛けて射出された。当たることはなく切られたが妨害にはなった。
「邪魔」
少し苛立った様子で今度はモルティスに斬りかかったビクターだったが、エイデンの魔力によって速度が落ちている。俺の目でも捉えられる速さだ。しかし、それがモルティスにとっても同じかはわからない。もしかしたら目で追うことができていない可能性もある。
「俺がしてたのが強化魔術だけだと思うか」
「な、にっ……!?」
ビクターの足元に突如出現した魔法陣。それは出た瞬間に爆発を起こした。即座にビクターは地面を蹴ってそこから逃れたが、逃げた先の床にも魔法陣が出現しさらに爆発した。今度は避けられない。
「お前は速いからな。適当に仕込ませてもらった」
刻印した魔法陣型魔術による地雷か。もしかしたらエイデンへの攻撃が外れていた時に発動していたのも既にセットしてあったものかもしれないな。
俺の時には同じ戦い方をしていればまだ戦えただろうに。
「あー、やだやだ。やっぱり魔術師ってさぁ、みんな嫌な奴だなぁ」
流石に無傷というわけにはいかなかったようで、爆発によって生じた煙から出てきたビクターの体は傷ついていた。
「いいよ、わかった。やり方を変えよう」
間合いでもないのに関わらず、剣を構えた。
で斬撃を飛ばすつもりのようだ。それを見てモルティスに視線を送った。気づいたモルティスはその意図を理解してくれたようで、すぐに俺をビクターの背後に転移してくれた。
「させない」
「同じことを」
また反応された。でも動きが遅い。対応できる。攻撃を躱して4発拳を打ち込む。さらに反撃を避けた後、回し蹴りを食らわせた。
「く……!」
押している。魔力循環を使用できなくさせたのがあまりにも大きい。
「ラディクス!!」
魔力とは別の力がビクターから溢れ出る。嫌なものを感じ取って一旦追撃をやめた。
「……あぁ、違う。常に、常に僕が勝者なんだ……。僕は、超越者になるんだ……! 劣勢になんてなっちゃダメなんだ! わかる?!」
「知らないよ」
どうでもいい話だ。興味がない。
「わかれよなぁ!?」
また斬撃を飛ばそうとしたビクター。俺が止めに入るよりも前に、彼の両サイドから現れた光の鎖にその動きを止められた。モルティスの魔術のようだ。
「流石に俺たちの勝ち」
距離を詰め、魔力を右手に集中させる。そして、
「《インクリース、四重奏(カルテット)》」
顔面を殴り飛ばした。さっきのお返しだ。今のは相当効いたはずだ。意識ぐらいは刈り取れてると思う。
「残り1人」
殴り飛ばしたビクターの体は俺が通過してきた壁を新たに突き破って向こう側に戻った。そちらにはもう1人神器使いがいる。彼女の神器はそれほど強そうな感じはしなかったからビクターほど苦戦はしないとありがたいな。なんなら戦闘することすらないと助かるんだけど。
「無事か、エイデン」
「痛ってぇけど……死んじゃいねぇ。あの程度で死ねるか」
よかった。思っていたよりも元気そうだ。
「この先にまだ少し強めの敵が1人いるから気をつけて」
「まだいんのかよ」
「うん。でもビクターほどじゃ……またか」
また感じた。ビクターとは魔力とは別の……おそらく生命エネルギーと言っていたものが溢れ出ている。まだ意識があるのか。それとも機嫌がどうとか言ってきたし、神器が勝手に動いているとか? わからないな。神器については全然知識がないからなんとも言えない。さっきは何もなかったしとりあえず──
「っ……!? 避けて!!」
これまでにない歪なものを感じ取ってとりあえず指示を出した。2人は俺の焦った声を聞いてか、何の疑問も口にすることなくその場から飛び退いた。すると次の瞬間、俺たちがいた場所をそれぞれ壁の向こうから伸びた鋭利な木の根のようなものが貫いた。
「なんだ、これ」
「木の根……」
木の根は少しするとゆっくりと引っ込んでいった。タイミング的にビクターの神器の力なんだろうけど、なんだったんだ? 起こったことだけ見ると攻撃ではあったけれど、目的がそこにない気がする。捕食、その表現の方がしっくりくる。
「──気分がいい」
壁の向こうから穏やかな声と共に、あの剣の神器を持ち赤銅色の鎧を纏った人物が歩いてきた。
声が、マフィのものじゃない。
「続きを、しようか」
2つの神器を持つ者がそこにはいた。
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