第31話 乱入
準決勝、アインはマラキアの寮長を相手に難なく勝利を収めた。というわけで決勝は結局俺とアインだ。これから始まる。
「確認をしましょう」
「ギアスの内容の?」
「そうです」
運動場の中央には2人だけ。始まるまでの時間でギアスの確認をする。
「シン様が勝った場合は私があなたについて知っている理由をお話しします。そして、私が勝った場合は私と契約してもらいます」
「契約はお互いの魔力格の一部の交換、それでいい?」
「ええ。ではギアスを」
ギアスを成立させるにはまずお互いの認識を一致させなければならない。その過程を今終えた。これで問題ないはずだ。
俺たちは指を軽く切って床に垂らした。そして詠唱。
「世界よ、我らは誓う。我らの血を持ってこの誓いを確固たるものにしたまえ」
血は発火し、蒸発して消えた。
現世界を介するため現代で最も魔法に近い魔術なんて言われているギアスだが、やることはとても簡単で誰でも使える。もう終わった。これでギアスは結べている。
「あとは戦うだけですね。シン様はとても強いので怖いです」
「思ってる?」
「はい。だって魔術を無効化してくるなんて魔術師とっては天敵ですから。魔法陣型を使う場合に限りますが」
そう、俺は魔術師に対して強気に戦うことができるが、それは現代で使われる魔術が魔法陣型だからという理由が大きい。つまり詠唱型を主に使う魔術師には別に有利でもなんでもない。むしろただ魔術戦になれば不利だ。
そこまで彼女にはわかってるだろうし、詠唱型の魔術も当然のように使えるんだろう。どうしたものか。最初に想定していた以上の強敵だ。
「ふふっ、楽しみですね」
「何が?」
「これから戦うことが、です。先程は満足されていなかったでしょう? 私もです。今時魔術を使って戦うなんてことありませんからこの大会はそれなりに楽しみにしていたんですが、戦うことがないのは皆さんも同じで、そのせいで戦いなれている人もいない。でも、シン様は違う。私の力、振るわせてください。シン様も全力で。落胆はさせません」
落胆、落胆か。確かにさっきのモルティスの戦いはちょっと残念だった。モルティスならまだできただろうに中途半端なところで終わってしまった。戦うことは別に好きではない。けれど戦闘を通して知らないものを知ることは多分好きだ。ノレアも「未知なものを知る瞬間はとても楽しいよ」と言っていたし似てきたのかもしれない。その後に続いた「理解できないものもまた面白いけどね」というのはまだよくわかっていないけれど。
まあなんであれアインなら確かに見せてくれるかもしれない。俺の知らないものを。
「遊びましょう。そしてわかり合いましょう。お互いの全てを曝け出すんです。そして私をもっとあなた様の虜にしてください。あなた様がいないと死んでしまうほどに」
「やるだけやるよ」
「ええ、それで構いません」
距離を取る。あとは鐘を鳴るのを待つだけ。
間も無くアインとの勝負が──
「……なに?」
違和感を感じて視線を動かした次の瞬間、校舎の3階の辺りが爆発した。
「──いえーい。学生の皆さーん。申し訳ないけど大会は中止でーす」
そこには悪魔がいた。セミスだ。殺したはずの悪魔が翼を広げて穴の空いた校舎から俺たちを見下ろしている。拡声魔術でも使っているのか声がよく聞こえる。
「なんで……」
そんな状況に困惑の言葉を漏らしたのはアインだ。確かに悪魔なんて存在が現れればそうなるのもわかるが、どこか違和感があった。
「全生徒ここにいるんだよなぁ? 説明が面倒だから短く言うぞ。全員動くな。校舎に入ってきたやつは殺す。以上」
なぜ生きてるのかはもういい。生きている事実は変えられないのだから。今はセミスをどうするか考える。放置してていいことなんて何もない。
「……悪いなぁ、アイン。約束を破ったのは俺だ。あんまし時間がないんだよ」
最後にそう言い残しセミスは校舎に消えた。
最初の反応といいアインはセミスと関わりがあるようだ。
「──お、お前たち! 落ち着いてその場にいてくれ!! 今すぐ教員たちで状況を確認してくる!」
ドロシーの声だ。本人が1番落ち着いてなさそうだったのは置いておいて、ドロシーの近くにいたパートの姿と数人の教員の姿がない。ドロシーの言ったように校舎の様子を見に行っているようだ。そこはいいとして、俺は視線をさらに動かしてとある方向を見た。
「……いないか」
ビクターの姿がなくなっていた。ついさっきまで俺と話していたから、悪魔が出てから移動したんだろう。問題はどこに行ったかだ。
「シン」
フィアとティアが俺の元へ来た。いつの間にか運動場に張られていた結界も解除されていたらしい。一体何が起こっているのか。
「悪魔を殺しに行く。目立たないように側面から校舎に入るよ」
「側面って入口ないでしょ。窓から?」
「いやこっち側からだと窓が少ないから壁を壊す」
「壊すって、いいのか?」
「もう悪魔が大勢に見られてる。最低限自分たちの姿が見られないようにすればいい」
状況が前回とは違う。正体さえばれなければコソコソやる必要もないだろう。
「アイン。俺たち行くけど、何かあの悪魔について話すことある?」
「いえ、ないです。私はあの悪魔と知り合いではありますがそれだけです。シン様の利益になるような情報はありませんね」
「そう」
事実かどうかの判断はつかないけどあまり悪魔を放置したくない。後にしよう。
「ですがあの悪魔については、お母様が知っています。彼をここに連れてきたのはお母様なので」
「ありがとう」
いい情報を聞けた。フォルトゥナにも会いに行く必要があるな。
「おい、お前たち!」
ドロシーが駆け寄ってきた。息切れしている。
「まさか行くつもりか?」
「行くよ。俺たちの役目だから」
大会に関してはもう仕方ない。黒い異形に関してはとりあえず諦める。
「わ、私も行った方がいいか?」
「え?」
意外な提案だ。
「深淵属性に対しては強く出れるからな。役に立てるかもしれない」
戦うことには全く向いていないけど確かに能力は対悪魔の先頭で役立つ。執行者だということも知られているし選択肢としてなしではない。
「……いや、先生はここで他の──なに?」
なんの前触れもなく景色が変わった。運動場じゃない。俺が今いるのは暗い部屋だ。
みんなの姿が消えている。いなくなった。
「シン・エルドフォール」
「……フォルトゥナ」
背後からの声。振り向くとそこには超越者と呼ばれる存在がいた。
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