第28話 魔術大会
魔術大会当日。
ようやくこの日が来た。
出場者は運動場の中央に集まっている。人数は16人。案の定聞いていた去年の数よりも少なくなった。
参加していない生徒たちは運動場の外側から見ている。結界を張って入ってこれないようにしてるらしい。
それにしても参加人数が少ない分向けられる視線が多いな。これだけ注目に晒されることもなかなかない。
「一年はお前とあのエルフだけか」
参加した一年生は俺とアインだけらしい。数が少ないほうが俺としては面倒が減って嬉しいが、エイデンは横で「貧弱だな」なんて言って呆れた様子だった。
「今時魔術師が戦う必要はないから仕方ないだろう」
「何が仕方ねぇだ。弱い奴は食い物にされるだけだ」
「やる気あるね」
「ああ。お前も今度こそぶっ飛ばしてやるよ」
エイデンも才能はあるように思える。もしかしたらまだ知らないものを見せてくれるかもしれない。それは少し楽しみだ。
「おいおい粋がってんなぁ!」
と3人で会話をしていたところに大きな声の男が近寄ってきた。知らない人物だ。制服の少しデザインが違うため寮は同じじゃない。
「誰?」
「シルワの寮長、ニコラスだ。声のうるせぇバカだよ」
「あぁ!? 聞こえてんぞ!」
「ほらな?」
確かにうるさい。
「ん? おい、もしかしてエイデン、そいつが噂のお前を負かしたやつか? たははは! おもしれぇ! お前こんな奴に負けたのかよ!」
「ちっ……」
すごい笑われている。
「そんな噂になってるんだ」
「テメェのおかげでな」
不機嫌になってしまった。
「モルティスに負けて次はこんな新入生かよ!! あはははは!」
「はっ。そんな俺より弱いテメェはさらに笑いものだな」
「あぁ?」
「──そこまでにしておけ」
制止の声とともにバートとドロシーが現れた。説明役が来るという話だったのでこの2人がそうなのだろう。副学院長のバートの前だからかニコラスはエイデンを睨みながら離れていった。
「これから運動場にて一対一の魔術勝負をしてもらう。魔力壁魔力弾を除いて、魔術以外の使用は禁止。相手に降参を言わせる、戦闘の場を囲う結界に触れる、気絶をさせた場合に勝利とする。また、身体状況によって、こちらの判断で勝負を止めて勝敗を決める時がある。そこは理解しておけ。説明は以上だ。質問があるものは挙手を」
事前にエイデンたちに聞いた通りだ。疑問はない。他の人たちも同じのようで誰も手をあげることはなかった。
「では、対戦相手を決めるため、くじを引いてもらう」
正面に大きな紙に書かれたトーナメント表が出現した。頂点から枝分かれした線の端にはそれぞれ1から16までの数字が割り振られている。1人ずつくじで引いてそこに名前を当てはめていくようだ。
名前を呼ばれたものからくじを引いていった。俺が引いたのは8番。相手は7番で既に決まっている。さっきエイデンに絡んでいたニコラスだ。
こっちを見てニヤニヤしている。
寮長ということはシルワの中で1番強いのだろうが……苦戦はなさそうだ。
「準決勝で俺と当たるな」
「来れる?」
「問題ない」
順調に進んでいったら準決勝でモルティスと戦いそうだ。
「エイデンは?」
「一戦目は雑魚だな。問題は……その次か」
2戦目にエイデンが当たる可能性があるのはアインだった。
「強いよ、多分」
「なめんな。最後にテメェらどっちかぶっ潰してやるよ」
対戦相手は決まった。あとは戦うだけだ。
「それではこれから試合を始めていく。15分後に開始だ」
魔術大会が始まった。
******
「シン!」
端の方で3試合目を観戦している最中で背中から声をかけられた。ビクターだ。
「まだいたんだ」
「冷たいなぁ。もう今日で帰ることになったから挨拶しようと思って探してたんだよ」
「学院長への用事は済んだの?」
「いや、今日で終わる」
「そっか」
結局帝国がフォルトゥナになんの用があったのかわからなかったな。最初は悪魔の件で来た可能性は高いと考えていたけど、それだと帝国から騎士が来て聖教国からは誰も来ない意味がわからならなくなる。異端狩りといえば聖教国なのだから。
聖教国が動けていない理由は普通に考えれば超越者であるノレアが、同じく超越者であるフォルトゥナに接触することを各国が危険視して中々許可が降りず、膠着状態にあるというのが妥当だとは思う。けど、そうなると何故帝国は最高位の騎士であるヴァントを送れているのか。特殊な立ち位置にあるナルダッドには国が干渉してはいけないため、もし何か用があり使者を送る際には許可が必要な筈だ。他の国が許可をしても自分達が放置されている状態で聖教国許可を出すとは思えない。
……まさかそもそも許可なんて取ってないのか?
「これ何やってんの?」
「魔術の腕を競う大会」
「へー、面白そう!」
「帝国の騎士から見たらレベルは低いと思うよ」
「ははは、それは確かに」
1試合目はモルティスが出ていたためそちらの方が見応えはあった。今見てる試合はレベルが低い。
「終わった」
勝敗が決まった。次は俺の番だ。10分後に始まる。
「あれ、もしかしてシン出るの?」
「出るよ」
「へぇ、驚き。そういうタイプに見えなかった」
「別に戦うのは好きじゃないよ。ただ今回は事情があって優勝しないといけない」
「優勝できる?」
「できなくはない」
障害は大してない。
「シンって強いんだ」
「今の試合よりは高いレベルの試合は見せられるよ」
「それは楽しみだなぁ。ここで見とくよ」
帝国の騎士にあんまり見られたくはないけど、負けるわけにもいかないから仕方ない。サクッと終わらせよう。
******
「やっとだな」
ニコラスが正面に立った。始まるまでもうちょっと時間がある。
「なぁ、お前どうやってエイデンに勝ったんだ? あいつは別に弱くない筈なんだけどなぁ。お前みたいな奴が勝てるとは思えない」
「意外とエイデンの評価高いんだ」
「当たり前だ。モルティスがいなければあいつは間違いなく寮長だからな」
思っていたよりもちゃんとした目を持っているらしい。
「で、あいつはどれだけ油断してたんだ? なんか聞いた話によると魔術を途中から使わなかったとか聞いたんだが、流石にデマだよな? あいつがそこまでふざけたことやるとは思えねぇ」
「やればわかるよ」
「生意気だなぁ、お前」
2ヶ月前と似たような感じだ。相手が違うが。
「それでは第三試合を始める! 両者距離を取れ!」
「一撃で終わらせてやるよ」
「俺も」
十分に離れたところで止まる。それから間も無く、合図の鐘が鳴った。
「ぶっ飛べ!」
合図と同時に五層の魔法陣が3つ展開された。強力な衝撃波を発する魔術を行使するようだ。この場を囲む結界に触れたら負けなのでそれを狙っているんだろう。
「は……?」
俺は即座に魔法陣を相殺した。五層あろうと魔術文字が変動しないならなんの苦でもない。簡単すぎるぐらいだ。
「何しやがった……?」
「真逆の魔法陣をぶつけて無力化した」
「な……」
走る必要すらない。歩いて近づく。
「くそ! ふざけんな!」
その後も2回魔法陣を展開してきたがそれらも相殺した。
「あの野郎、使わなかったんじゃなくて使えなかったのか!!」
ようやく正確に理解したようだがもう遅い。
「照らすもの、燦々と──」
詠唱型は止められない。変なことをされても面倒だし、終わらせる。
瞬時にニコラスの懐に入り、腹部に手を当てた。そこから魔術名以外を省略した詠唱型魔術を発動させる。衝撃を生み出す単純なもので、実際の戦闘じゃ大して使えないが、今回はこれで十分だろう。
「〈インパクト〉」
「だ、は……っ!」
ニコラスは吹っ飛んだ。けど流石に結界までは距離があった。倒れて転がりはしたけど、まだ勝負はついてない。ならばもう一発だ。
「ふ、ふざけやが──」
「〈インパクト〉」
「あ、ちょ、ま、ぁ……っ!?」
問答無用で2回目。今度こそニコラスは結界に打ち付けられた。勝ちだ。
呆然としてしている観客たちから特に歓声とか聞こえてくるものはない。あったのはモルティスとビクターの拍手だけだった。
******
「やるなぁ、シン!」
「相手が弱かったよ」
「確かにそうだったみたいだけど、魔法陣を相殺するってすごい技術なんだろ? うちにいる魔術師が言ってたぞ」
「ビクターが思ってるほどじゃない」
使われていない技術なだけであって、魔法陣をしっかりと視認できる目を持ってれば誰でもできる筈だ。
「謙遜しなくていいんだぞ〜」
謙遜とかじゃなくて事実なんだけど、まあいいや。
「他に強い奴は?」
「いるよ。ほら、ちょうど今出てきた」
「あれ、アインちゃんじゃん。へー、やっぱりエルフは強いんだなぁ」
アインについては何も知らないのか。
いや、他にも来ている人がいるようだし、ティアみたいに情報を頭に入れてないだけの可能性もあるか。
「まだ時間あるしせっかくだから見とこ」
アインがどんな魔術を使うのかまだ知らない。この試合は注目してみよう。と、思っていたが──
「──終わっちゃった」
試合が始まって数秒、五層の魔法陣を20展開した瞬間に対戦相手が諦めて降参した。あのモルティスでも15ほどが限界らしいので無理もない。あの対戦相手からしたら次元が違っただろう。
「すごいなぁ。帝国にいる1番すごい魔術師も作れる魔法陣の最大数が20ちょっとだったよ。確か」
大して情報は得られなかったな。わかったのはおそらくあれでも本気じゃないだろうってことだけ。
けれどエイデンが勝ち上がったらアインと当たる。実力はそこで観れるだろう。
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