第18話 断罪の力
場所は外。初めてセミスと出会った場所だった。ここでなら抑える必要はない。
「手放してよかったのかぁ?」
「また逃げる?」
「また……。また、ねぇ。あれは戦略的撤退なんだけどなぁ」
「決着が着く前にいなくなったら逃げでしょ」
「……クハハ、お前アレだな、腹立つな」
雰囲気が変わった。やる気になったようだ。
「俺は弱くない。悪魔だ。だから人間であるお前から逃げる必要もない」
「そっか。なら終わらせよう」
3回目の戦闘が始まった。
まず仕掛けたのはセミス。あっという間に距離を詰め、接近戦に持ち込んできた。これで銃は使いにくくなった。まあ速度的に簡単に対応されそうだったので、あの銃はそもそも使う気はなかったから問題はない。俺が手に持ってるのは前回と同じ短剣だけだ。
「お前も黒化させてやる」
黒いオーラを纏った手でセミスは絶え間なく攻撃を仕掛けてくる。俺の魔力がいくら異端に対して抵抗力があっても、完全じゃない。許容量がある。モルティスのように微量の深淵の力であれば──今思えばあの時は魔力壁があったからだったからかもしれないが──耐えられる。だが、あれ以上となると無理だ。ここにはドクターもノレアいない。深淵に侵食された瞬間に終わりと考えた方がいい。なのでなるべく触れないようにした。全てを躱す。どうしても防御しなければならなくなった場合は義手で受け止めた。
「クソが」
俺に攻撃が届かないことにセミスは苛ついている。その感情を消し去るようにセミスから感じる魔力の動きが速くなった。魔力循環の速度を上げたんだ。加速してくる。俺も循環を速めよう。
「……! なんなんだお前!」
攻撃速度が上がった。けれど届かない。セミスの攻撃を全て防ぎ躱す。俺がダメージを喰らうことはない。
「執行者」
「が、ぁ……っ」
セミスの腹部にいいパンチが入った。魔力を纏わせていたからそれなりに効いているはずだ。続いて短剣で切り付けようとしたが、鋭利な尻尾と魔力弾を用いて無理やり距離を離させてきた。当たるわけにもいかないし仕方ない。
「なんでさっきより、強くなってる……!」
「さあ」
「チッ! 人間如きが……!」
今度は周囲の魔力が荒れ始めた。
「本気?」
「ああ。殺してやる」
「そう。なら俺も使うよ」
ティアが砕いたはずのセミスの腕はあれから大して時間がたっていないと言うのに既に治っている。つまりあの程度ではすぐに回復される必要がある。ならば俺はあれを超える火力を出すしかない。
「なんだと?」
産まれるはずのなかったモノ。この世にいてはならない存在。異端。
それが目の前にいる。異端筆頭、悪魔。
放置すればきっとモルティスのような犠牲を生み出すだろう。おそらく規模はどんどん大きくなっていく。だから殺す必要がある……のだろうが、あまり興味はない。
誰かを助けなきゃだとか。被害者を増やしたくないだとか。世界のためだとか。俺にそんな崇高な思いはない。
俺は執行者。ただ処理するだけ。それだけ。もちろん全員がそうじゃない。むしろ俺のような執行者は少ない筈だ。みんな誰かのために何かのために戦っている。
けれど、俺は違う。何故なら異端を殺すことは俺の目的じゃない。過程だ。
だから殺す。そこに感情はない。無慈悲に、完璧に、一切の迷いなく、殺す。
「──《異端審問》」
「あ? 何を言って──」
瞬間、セミスが地面に膝をついた。
「な、に……?!」
さながら罪を犯した者が押さえつけられているような状態だ。本人は何が起きているのか理解できていない。
「お前、何をした……!!」
「審問」
「あぁ?!」
「膝をついてる。有罪だ」
審判は下った。なら次に行われることは決まっている。罪を裁く。
「──《汝、終焉を齎す者。我が力を持って、汝の罪を貫かん》」
短剣を捨て、俺は新たに武器を手にした。
真っ白な銃だ。もちろんただの銃ではない。
それはとても常人が片手で持てるようなものではなく、銃身が異様に長かった。俺の足から胸の辺りぐらいまではある。外装は俺のが今まで使っていたものとは全く違い、まだ銃という武器が生み出されてから間もないこの世界に似つかわしくない近代的なものだ。
中身が色々と詰まってそうだが、見た目から想像できないほどに軽い。俺は片手で持つことができている。
その銃を、セミスに向けた。
「くそ……!」
俺は3つ能力を使える。1つは空間を繋げるフィアの《ゲート》。2つ目は威力、効果などを増加させるティアの《インクリース》。そして3つ目は、ノレアによって使えるようにしてもらった能力。それがこれから使う力。異端を裁く力。力の名はーー
「──《断罪》」
引き金を引いた。
銃口から吐き出されたのは銃弾ではなく、光。一筋の光が、セミスに向かう。
「この程度でぇ!!!」
歪な魔力の放出。拘束から脱したセミスは即座に飛び上がって光を避けた。
「そんな遅いの当たらねぇよ!」
「まだ罪を貫いてない」
「はぁ?」
俺は銃口を上空にいるセミスに向けた。
「ハッ! いいねぇ。こいよ。何度でも避けて──く……っ?!」」
セミスの背後から飛んできた光が彼の翼を貫いた。本来なら胴体の心臓部分に当たっていた筈だが、察知したのか避けるように体を動かされたため外れた。
「足りないか」
この銃は『貫く』という断罪。貫いた時点でそれは終わってしまう。一発目は今ので消失した。けれど、まだ罪を裁くには至っていない。もっと火力が必要だ。セミスという悪魔を存在ごと貫く火力が。
「《断罪、出力解放》、《インクリース、四重奏(カルテット)》」
「……!」
銃口の先に4つの魔法陣が一直線に展開される。しかし、これは魔術を発動しようとしているわけじゃない。この魔法陣はこの世界で魔術師が使っているものとは別種だ。魔術文字は使われておらず、幾何学模様だけで構成されている。具体的にこの魔法陣がなんであるのか俺も知らないが、そこはどうでもいい話。重要なのはこれで断罪の火力が上がるということだけ。その事実だけで十分だ。
「これで終わり」
再び引き金を引く。
射出された光は4つの魔法陣を通過したことによってその太さを増し、やがて悪魔一体を飲み込めるほどになった。
当然セミスは避けようとするわけだが、断罪の力はそれを許さない。
「なんだ、これ……! 俺を蝕んでる?!」
最初は外側から。今回は翼から体内に侵入しているため内側からの干渉だ。拘束の力は最初の比じゃない。完全に捕らえた。今度こそ終わりだ。
「ふざけーー」
間も無く、光は悪魔の体を飲み込んだ。
「貫く……まあ貫いてるか」
上空に見えるのは青色の空だけ。悪魔の姿は完全に消失した。気配もない。断罪の力が体内に入っている状態では、ろくなことはできないだろうし転位はしていない筈だ。無事に殺すことができただろう。
「……怒られるかな」
異端は排除した。しかし今回ミハイルに言われていたのは調査。もちろん殺すところまでそこに含まれているが、アンゲルス……聖教国としては歪な魔力の正体がなんなのか、なんで発生したのかを知りたかった筈だ。それに対して悪魔だったという返答はできても、なんで悪魔がいたのかまでの情報を得れていない。聞き出すことなく殺した。これは忘れていたとかじゃなくて意図的にしたことだ。あれが大人しく話すとは到底思えなかった。捕らえたところで俺の断罪の力は長く続くわけじゃないし、転移で逃げられる。逃してしまえばそれこそ失敗だ。だから殺した。
「聞いてみるか」
あの悪魔について情報を持ってるのは2人。確定ではないが、ここの管理者であるフォルトゥナはあの悪魔について少なからず知っている筈だ。彼女には後で聞くとして、できればもう1人の一番情報を持っている人物に話を聞きたいが……どうなるか。
「休もう」
向こうにはティアとフィアがいる。最悪の事態にはならないだろう。それよりも少し休憩。断罪の力はまだ覚醒してそんなに日が経っていないため使うと疲れる。
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