第7話 副寮長

 島一つを学園としたナルダッドは高い城壁に囲まれている。その先にあるのは三本の塔とそれら全てに繋がる本館からなる巨大な校舎。流石は世界一の魔術学校と言われてるだけあって、その様子はまるで大国の王城のようだった。


「ルイは別のグループか」


 校舎に入ってから合格者は3つのグループに分けられてそれぞれ別の場所に案内されている。周囲を見渡してみたが俺たちと同じグループにルイはいない。


 「さっきの話、どう思った?」

 「特にどうも。あまり興味のない話だから」


 ルイは死者を蘇らせることは不可能なのか知りたいと言った。俺としては誰かを蘇らせたいとか思ったことはないのでどうでもいい話だ。でも、少し気になることもあった。それはルイ本人が誰かを蘇らせたいというわけではなさそうだし、そもそも死者を蘇らせることはできないと思つていそうだったことだ。


 「実際死者を生き返らせることってできるの?」

 「確か帝国と聖教国は死者を蘇らせようとするの禁止にしてたよな。禁止にしてるってことはできるんじゃねぇの?」


 アイテール教では人は死後、天神のいる空へ向かうとされている。なので聖教国では死者を神聖なる天から引きづり下ろそうとする甦生、その思考自体を悪とされている。


 「帝国はよくわからないけど、聖教国の場合は蘇らせようっていう思考を良くないって言ってるわけだからできるとは限らないよ。多分できないと思うけど」

 「なんで?」

 「ノレアが前に言ってた。世界の流れは不可逆だって。だから死者を蘇らせることはできないと思う」


 生き返らせることができてしまえばそれは不可逆じゃなくなる。


 「それに──」

 「──合格者諸君! 今日はよく集まってくれた!!」


 吹き抜けの広間。そこに俺たちのグループの全員が集まったところで、上の階からなんらかの魔術で拡声されたであろう大きな声が発せられた。


 「おめでとう。君たちは今この瞬間からこの第三の塔、『アウィス』の寮生だ! これから今後君たちが寝泊まりすることになる部屋へと案内しよう。授業は明後日から開始となる。長旅だった者も多いだろう。今日明日は存分に体を休めてくれ!」


 話はそこで終わった。


 「第三の塔って言うと?」

 「ナルダッドは生徒の所属する寮を三つに分けてる。そのうちの一つがアウィス。基本的な情報のはずだけど、アハトさんからもらった資料読んでないの?」

 「お前が読んでたから別にいいかなって」

 「はぁ……」


 ティアが適当なのはいつものことだ。頭は俺とフィアが使えばいい。


 「いつ動くの?」

 「まだ決めてない。とりあえず学園のシステムを理解してからのつもり。学園内の明確な情報って寮のこととぐらいしかしらないし。あぁ、でも学院長に……」

 「……どうかした?」

 「なんか来た」


 ちょっと強そうな魔力が近づいているのを感知したので会話を中断した。視線を移す。すると長い髪を後ろで束ねた目つきの鋭い男子生徒を先頭に、何人かの生徒がこちらに歩いてきているのが視界に入った。


 「よぉ、新入生ども。俺はアウィスの副寮長、二年生のエイデン・フィルト=ヴォルドゴア。気に食わないがアウィスのナンバー2だ。これからお前らを案内してやる……が、その前に確認したいことがある。この中にいる魔力総量100越えの奴手上げろ。一応言っとくが嘘はつくなよ。見ようと思えば魔力量はこっちで見れる。手間はかけさせるな」


 保有する魔力の総量を数字で表す装置がある。試験の時はそれで魔力量を測った。一般人であれば大体10あれば多い方だそうだ。その時の計測の結果、俺は108。フィアが96でティアが186だった。多い方だ。なんならティアに関してはちゃんと計測すればもっと多くなると思う。


 「2人か」


 嘘をついても無駄ならということで手を上げた。目立ちたくはなかったけど仕方ない。


 「今年は計測器壊した化け物がいるって噂を耳にしたがお前らか?」

 「違う」


 それがいるのはこの寮じゃない。


 「ちっ。まあいい。2人もいりゃいい。お前ら名前は?」


 ため息をついてフィアが一歩下がった。俺が対応しろということらしい。


 「俺はシン・エルドフォール。こっちはフィア・バルデンガス」

 「そうか。単刀直入に言おう。お前ら、俺の下につけ」

 「下?」

 「そう、下。手下だ。アウィスの現寮長が気に食わないんでな。そいつを退かすために人手が欲しいんだよ。特に優秀なやつが」


 学院に来て早々面倒そうな話だ。


 「よくわからないけど、手下になったら何か見返りはあるの?」

 「ああ、勿論だ。働きによっては本館地下の魔術研究室と、図書室の高度魔術資料を許可なしに閲覧できる権利をくれてやる。どっちも副寮長以上の特権だ。まだわからないだろうが、どんでもない価値だぞ」


 とんでもないと言うからにはとんでもないんだろうが、どちらも興味ない。


 「別にいらない。だから誘いも断る」


 フィアは嫌だと言うだろうから大して考えずに返答してしまったけど、任務のことを考えると悪手だっただろうか。なんて少し後悔したところで、エイデンの眉がピクリと動いた。


 「違うなぁ。勘違いしてるぜ、エルドフォール」

 「勘違い?」

 「そうだ。俺がしてんのはお願いじゃねぇ。命令だ。テメェには端から拒否権なんてないんだよ」

 「でも嫌」

 「……なるほど」


 目の色が変わった。


 「観客もいるしちょうどいい。シン、俺と勝負しろ」

 「なんの?」

 「そりゃもちろん魔術師としての勝負だ。どっちが上か力で決める。これ以上なく単純でわかりやすいだろ」

 「そんなことして怒られない?」

 「ああ。ここはそういう場所だ」


 魔術の学校なんていうから静かな場所かと思っていたけど間違いだったみたいだ。上から教師だと思われる人物たちが見ているが止めに入ってくる様子はない。


 「念のため言っとくが、これも拒否権は──」

 「いいよ。やろう」

 「ほぉ」


 意外だというようにエイデンが笑みを浮かべる。エイデンの背後にいた生徒たちも「おー!」なんて言ってなんか盛り上がっている。完全に見せ物だ。ちょうどいい機会なんて言ってたし、多分この人は新入生に対しての見せ物にする気なんだろうけど。


 「弱気なアホかと思ったが、肝が据わってるみたいだな。気に入った! サービスだ。ハンデをくれてやるよ」

 「いや、いらない。そのままでいい」

 「はっ! おもしれぇ! んじゃこっちはいつも通りでいかせてもらうぜ? 後悔すんなよ、新入生」

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